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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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2012年07月17日

BATIK『おたる鳥をよぶ準備』06/30-07/01舞台芸術公園・野外劇場「有度」

 「ふじのくに⇔せかい演劇祭2012」(⇒記者発表の写真レポート)の最後を飾ったのは、黒田育世さんの新作ダンス公演。上演時間はなんと野外劇場で3時間!前半が2時間30分、途中休憩15分をはさんで後半の15分間は、観客が舞台上に移り、客席が舞台となる演出でした。

 大雨の野外公演は初体験でした…やっと屋外の洗礼を受けた気がします(笑)。100円のレインコートじゃあ頼りにならないのね!

 ⇒CoRich舞台芸術!『おたる鳥をよぶ準備
 ⇒黒田育世ロングインタビュー(2010年) 前編 後編

 あざやかな黄緑色の人工芝が敷き詰められたステージ。奥には本物の自然の木々が茂っています。舞台中央奥に人工芝と同色のパネルがぽつんと建てられており、紙製の日本地図(メルカトル図法)が貼られていました。

 今回も黒田さんは冒頭から全力投球だなと思いました…。会場に入るなり、すでにフルスロットル。
 死をテーマにした作品で、最期までおどり続ける鳥たちを見届けるには、強い雨が降りしきる環境は体力的にも精神的にも厳しかったですね。作品を鑑賞するというより、作り手と一緒に観客もふんばり続ける、ある意味とても能動的な(?)3時間でした。終演した時の私の達成感が異常(笑)。

 ここからネタバレします。

 笑顔で「私、ダンサーになるの!」と叫んで、日本地図に突進して、叩いて、また走って、倒れる。これの繰り返し。生まれて夢見て挫折して死んで、また何度も生まれて死ぬイメージ。
 上手と中央で、「ダンサーになるの!」と言って倒れていた女性(名前わかりません)と黒田さんが2人で踊る間、下手ではあきらかにセックスの表象。その間、舞台上部に干した状態だった洗濯物が、何度も床に振り落とされます(洗濯物といっても雨でびしょ濡れ)。この繰り返しが凄かったな~…。何回繰り返したのか数えられないぐらいでした。席を立って帰ったお客さまもいました。

 客席側が舞台になったラストは、高い台の上で踊る黒田さんのソロとじっくり観ることができました。空に、天に、神に、踊り(命)をささげているようでした。

SPAC・静岡県舞台芸術センター ふじのくに⇔せかい演劇祭2012
≪静岡、兵庫、愛知、東京≫
出演:BATIK(伊佐千明、植木美奈子、大江麻美子、梶本はるか、田中美沙子、寺西理恵、中津留絢香、西田弥生、矢嶋久美子、黒田育世)
構成・演出・振付:黒田育世 音楽・絵:松本じろ 舞台監督:寅川英司+鴉屋 舞台監督補:大友圭一郎 舞台監督助手:福島奈央花 小道具:栗山佳代子 照明:森島都絵(インプレッション) 音響:田鹿充 衣裳スタイリング:コロスケ 衣裳縫製:後藤寿子 中井川大介 制作進行:土屋彩子(ハイウッド) 制作プロデューサー:高樹光一郎(ハイウッド) 共同製作:愛知芸術文化センター、アイホール(伊丹市立演劇ホール)、SPAC‐静岡県舞台芸術センター 製作:BATIK 制作協力:ハイウッド
SPACスタッフ 舞台監督:内野彰子 舞台:佐藤洋輔 佐藤聖 和田沙緒理 照明:神谷怜奈 小早川洋也 音響:小嶋純真 衣裳:岡村英子 制作:伊藤尚子 高林利衣
【発売日】2012/04/15 一般大人:4,000円/大学生・専門学校生2,000円/高校生以下1,000円
☆SPACの会特典のほか、ゆうゆう割引、早期購入割引、みるみる割引、ペア/グループ割引料金があります。
http://www.spac.or.jp/f12otarudori.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 20:07 | TrackBack

テアトロ・マランドロ『春のめざめ』06/30-07/01静岡芸術劇場

 コロンビア出身でスイスでご活躍中の演出家オマール・ポラスさんによる『春のめざめ』は、「ふじのくに⇔せかい演劇祭2012」参加作品です。⇒記者発表の写真レポート

 ポラス作品はSPAC『ドン・ファン』、SPAC共同制作版『シモン・ボリバル、夢の断片』を拝見したので、個人的には3度目。フランク・ヴェデキント作『春のめざめ』は戯曲がすごく好きで、今回はじめて上演を観られて嬉しかったです。演技も演出もとても面白かった。上演時間は約1時間55分。

春のめざめ―子どもたちの悲劇
フランク ヴェデキント
長崎出版
売り上げランキング: 334507

 ⇒CoRich舞台芸術!『春のめざめ

 ≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
 「赤ちゃんはどうやったらできるの?」
 性にめざめ始めた子どもたちの悲劇
 「子どもたちの悲劇」というサブタイトルを持つ本作は、性にめざめ始めた10代の少年少女の姿を赤裸々に描くと同時に、彼らを取り巻く無理解な大人たちや、19世紀末の抑圧的な道徳観を痛烈に批判した社会風刺劇です。ストレートな性描写、10代での妊娠・中絶死、暴力、やがて起こる友の自殺――。その過激さゆえに発表当時(1891年)のドイツでは社会問題にまで発展し、以後1906年まで上演を禁じられていたという、いわくつきの作品です。ブロードウェイミュージカルにもなった本作を、ポラスがどのように演出するのかに注目です。
 ≪ここまで≫ 

 舞台中央から下手にコンクリートの壁。その奥には森の木々。壁の前の床には土が敷かれています。俳優はいわば戯画的な演技で子供たち、大人たちを代わるがわる演じます。衣裳とヘアメイクは映画「アダムス・ファミリー」みたい。
 勉強できない子を落第させたり、世間体を守るために堕胎させたり、大人が子供の命を奪うエピソードが連続する残酷な物語ですが、過激だったり幻想的だったりするヴィジュアルによって、出来事の奥底や外側を豊かに想像させてくれました。役者さんもすごく達者な方々で満足。

 ここからネタバレします。

 両親が息子メルヒオールを糾弾する場面は、白黒の無声映画を模した演出でかなりコミカル。でも起こってることは非常に恐ろしいです。
 自殺したモーリッツが眠る墓地で、出演者が次々とかつらを脱いでいくのには驚きました。完全に、物語の世界の外側へと出て行く演出ですよね。具体的にどういう意味なのかはっきりとはわからないですが、私は(物語の中の)窮屈な世間からの開放や、架空の物語と今ここにいいる出演者(および観客)との出会いなどと解釈しました。


 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 出演:オマール・ポラス 宮城聰 ほか(女優さん1人)

 ポラス:この作品は長い、長い、詩だと思う。詩的な部分をあらわすために絵を使った。壁の絵の文字はCondemned to Agony。

 ポラス:人生は「楽しい苦しみ」だと私は思っています。
 宮城:座右の銘にしたいぐらいの言葉ですね。


SPAC・静岡県舞台芸術センター ふじのくに⇔せかい演劇祭2012
出演:ソフィー・ボット、オリヴィア・ダルリック、ペギー・ディアス、アレクサンドル・エテーヴ、アドリアン・ジギャクス、ポール・ジャンソン、ジャンヌ・パスキエ、フランソワ・プロー、アンナ=レーナ・シュトラーセ
脚本:フランク・ヴェデキント 演出:オマール・ポラス 翻訳・翻案:マルコ・サッバティーニ、演出助手:ジャン=バティスト・アルナル、作曲・音楽監督:アレッサンドロ・ラトチ、美術:アメリー・キリツェ=トポール、衣裳:イレーヌ・シュラッテール、衣裳助手:アマンディーヌ・リュチャマン、衣裳製作:セシリア・モッティエ、かつら・メイク:ヴェロニク・グエン、かつら・メイク助手:ジュリー・デュリオー、技術監督:オリヴィエ・ロレタン、舞台監督:ジャン=マルク・バッソーリ、小道具:ローラン・ブーランジェ、音響デザイン:エマニュエル・ナッペー、照明デザイン:マティアス・ロッシュ、制作:フロランス・クレットル、広報:サラ・ドミンゲス、ロジスティクス:リュシー・ゴワ、会計:ロサンジェッラ・ザネッラ 製作:テアトロ・マランドロ 共同製作:フォロム・メイラン劇場、エスパス・マルロー シャンベリー・サヴォワ国立舞台、シャトーヴァロン国立文化創造発信センター 助成:ジュネーヴ市、ジュネーヴ共和国・ジュネーヴ郡文化部、メイラン市、プロ・ヘルヴェティア スイス文化財団、ロトリー・ロマンド、メイラン市文化・スポーツ・社会事業推進財団、ハンス・ヴィルスドルフ財団、レーナールト財団 後援:スイス大使館 ※テアトロ・マランドロはフォロム・メイラン劇場のレジデントカンパニーです。
SPACスタッフ 舞台監督:村松厚志 舞台:市川一弥 渡辺明 永野雅仁 照明:樋口正幸 村松彩香 音響:西沢理恵子 大塚翔太 衣裳:駒井友美子 畑ジェニファー友紀 通訳:石川裕美 字幕・操作:堀切克洋(酒寄進一訳による) 制作:佐伯風土 岡野彰子
【発売日】2012/04/15 一般大人:4,000円/大学生・専門学校生2,000円/高校生以下1,000円
☆SPACの会特典のほか、ゆうゆう割引、早期購入割引、みるみる割引、ペア/グループ割引料金があります。
http://www.spac.or.jp/f12printemps.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 19:31 | TrackBack

【情報】福島県立あさか開成高校『この青空は、ほんとの空ってことでいいですか?』が7月31日に横浜で上演されます

 東日本大震災からちょうど1年経った今年3月、東京の劇場で福島県立あさか開成高校演劇部が『この青空は、ほんとの空ってことでいいですか?』を上演しました。その直後、同校演劇部員はチャリティーイベントにも出演していました。

 今月末に横浜で、また『この青空は、…』が観られます。昨年の三年生が卒業して、新キャストになっての上演です。私のレビューから一部抜粋した文章がチラシに掲載されております(⇒PDF)。

 ●PAW YOKOHAMA・PAW2012東北支援公演vol.2
  福島県立あさか開成高校(郡山市)演劇部作品
  『この青空は、ほんとの空ってことでいいですか?』
  2012年7月31日(火)19時~@かなっくホール
  ⇒CoRich舞台芸術!でカンタン予約!
  ⇒公式サイト ⇒主催者ツイッター ⇒facebook内エントリー
   ※8月1日には同校演劇部元顧問の佐藤茂紀先生による高校生向けワークショップも実施されます。

 福島県郡山市で暮らす高校生の本音を、高校生自身の声で聴くことは、衝撃をともなう貴重な体験になると思います。この機会にぜひ横浜にお運びください。

Posted by shinobu at 15:31 | TrackBack

華のん企画『子供のためのシェイクスピア「リチャード三世」』07/15-21あうるすぽっと

 マチネの『ヘンリー六世 Ⅲ(第三部)』に続き、ソワレの『リチャード三世』(再演)を拝見しました。関連レビュー⇒ 上演時間は約2時間10分(途中休憩15分を含む)。

 初演より面白かったのはなぜなのかな~と考えたんですが、やっぱり『ヘンリー六世 Ⅲ(第三部)』と連続で、時系列に観られたからだと思います。何度も観てるはずなのに内容をすっかり忘れてるような、記憶力の弱い残念な観客だからかもしれませんが…(汗)。

 全国12か所をめぐる夏休みのツアー公演ですが、2作品を同じ会場で観られるのは東京と大阪だけです。ご興味わいたらお早めにご予約を♪

 ⇒おけぴ「12/07/05 華のん企画『ヘンリー六世 Ⅲ』稽古場レポ
 ⇒CoRich舞台芸術!『子供のためのシェイクスピア「ヘンリー六世 Ⅲ」「リチャード三世」

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 15世紀、イングランドの王座はランカスター家とヨーク家によって争われていた。
 『ヘンリー六世』第三部で描かれる王権争いの終結、
 しかしそれは『リチャード三世』へと続く惨劇の序章でもあった・・・
 ≪ここまで≫

 開演前の歌い手は伊沢磨紀さん。曲目はスガシカオ『黒いシミ』でした。

 『ヘンリー六世 Ⅲ』と同様の演出・演技スタイルですが、群像劇だった『ヘンリー…』と違い、『リチャード三世』はタイトルロール(山崎清介)が中心になっていました。だから連続ものとはいえ、受け取った印象はかなり違いました。原作がそうなのもあるでしょうね。『ヘンリー…』で張られていた伏線が回収されるのが気持ちいいです。きっと逆の順番で観ても面白いと思います。
 
 2作通じて全体的に、照明が地味すぎるんじゃないかな~という気はしました。もっと色づけしたり、あおったりする効果を使ってもいいんじゃないかしら、とか。

 ここからネタバレします。

 『リチャード三世』の冒頭で『ヘンリー六世 Ⅲ』の一部を繰り返して見せて、前編を説明する演出でした。わかりやすくていいと思います。※7月15日は、代役の長本批呂士さんと山崎さんが同じ場面を演じることになったので、2人のリチャードを見比べられてお得でした♪
 特に『ヘンリー…』で大活躍だった“ガミガミ女”のマーガレット(伊沢磨紀)は、『リチャード…』で突然登場すると、“魔女のような不可思議な登場人物”になってしまいかねないんですよね(今までの観劇経験上)。「ヨーク家の宿敵だったヘンリー六世の妻」だとわかって観ると、全然違います(物語を憶えている観客には必要ないかもしれませんが)。マーガレットが拡声器を通して呪いの言葉を発するのがすごく良かった(笑)。

 『ヘンリー六世 Ⅲ』でヘンリー六世(若松力)が「リッチモンド(伊沢磨紀)が王になる」と予言していたり、ヨーク家の長男エドワード王(佐藤誓)の病死が暗示されていたり、続編だから楽しめる仕掛けもいっぱい。主要登場人物を同じ役者さんが演じているのもいいですね。もちろん、複数役演じるゆえの楽しみもあります。リチャードの母親であるヨーク侯爵夫人を男性の佐藤誓さんが演じたのは破壊力抜群でした(笑)。

 リチャードは最後にリッチモンド(伊沢磨紀)に破れます。勝利をおさめたリッチモンドは、リチャードの左手(シェイクスピア人形)をもぎ取って右わきに抱えました。ばら戦争が終わってテューダー朝になっても、まだ争いは続くという意味ですよね。しゃべる人形の持ち主が変わるアイデアが面白いです。

 死者は舞台上に横たわり、2人の人物(たぶん黒コートの人々)が死者の両手を引っ張って、その体を床に引きずりながら袖にはけます。リチャードに殺される人数が多いから、死者を引きずる場面も多いんですよね。最後に舞台上部に光った多数の小さな照明は、星空を表現していたと思うのですが、その星々が死者の数のように思えました。

 あと、これは1ファンの勝手なつぶやきですが、イエローヘルメッツが出てこなかったですよね?悲しい!

王座をめぐる復讐の輪廻の物語、二作交互上演!
≪東京、神奈川、茨城、静岡、福島、大阪、愛知、滋賀、長野、愛知、福岡、三重≫
出演:伊沢磨紀(マーガレット/ヘースティングス/リッチモンド) 佐藤誓(エドワード/ヨーク侯爵夫人/司教) 山口雅義(ジョージ/スタンリー) 戸谷昌弘(ケーツビー/王子・兄) 若松力(ヘンリ―六世/バッキンガム)  大内めぐみ(エリザベス) 谷畑聡(グレー/ブラッケンベリー) チョウヨンホ(リヴァーズ/ティレル) 佐藤真希(皇太子/アン/ヨーク[王子・弟]) 山崎清介(リチャード/人形[左手])
原作=ウィリアム・シェイクスピア≪小田島雄志翻訳による≫ 脚本・演出:山崎清介 照明:山口暁 音響:角張正雄 衣裳:三大寺志保美 演出補:小笠原響 舞台監督:井上卓 プロデューサー:峰岸直子 企画製作:華のん企画 主催:華のん企画 稽古場アンダースタディー:長本批呂士
【発売日】2012/05/14 大人 5,000円 子ども(中学生以下) 3,000円 親子ペア(大人1+子ども1)6,800円※ 2公演通し券(『ヘンリー六世』1+『リチャード三世』1)8,500円※ ※華のん企画のみ取り扱い 当日学生割引(要学生証)4,200円
http://www.canonkikaku.com/information/shakespeare.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 11:37 | TrackBack