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2012年07月25日

ゴーチ・ブラザーズ『千に砕け散る空の星』07/19-30シアタートラム

 3人の英国劇作家が共作した戯曲を文学座の上村聡史さんが演出されます。3人の劇作家のうちの1人、サイモン・スティーヴンズ戯曲のレビュー⇒ 英国留学後に上村さんが演出した作品のレビュー⇒

 あるイギリス人家族の長年の別離の原因を、親子それぞれが秘めていた思いの吐露と、家系をさかのぼることで描いていきます。「あと3週間で世界が滅ぶとわかった時、最期の日をどう過ごすのか」という深刻そうな設定の内にとどまらない、面白い戯曲でした。上演時間は約2時間55分(途中休憩10分を含む)。

 開演前に客席に配布されている人物相関図をご覧になっておくと良いと思います。私は“ジェイク”と“ジェイムズ”の区別がなかなかつかなくて、前半はお話についていくのに必死でした(汗)。

 ⇒CoRich舞台芸術!『千に砕け散る空の星

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより一部抜粋。
 あなたならどうする、土曜日に世界が終わるとしたら?
 科学者にも政府にもヒーローにも防ぐことはできない。
 終末が近づくなかで家族が見つけたものとは…。
 ≪ここまで≫

 コズミック・ストリングス(宇宙ひも)という、宇宙を粉々にしてしまうブラックホールが地球に迫っているという設定です。“宇宙ひも”は架空の概念ではなく、NASAの望遠鏡がとらえたものだそうです(当日パンフレットより)。

 シアタートラムという劇場の壁をそのまま露出させた美術でした。舞台上には隕石のような石がちらほらと置かれ、客席の上にもぽっかりと浮かんでいます。劇場空間全体が宇宙だとも受け取れますね。個人的には殺風景過ぎてちょっとさびしかったな~。
 音響もごくわずかで、俳優の演技でじっくり積み重ねていく演出だったように思います。だからでしょうか、静かに自然に舞台に居る役者さん、登場すると光を放つような鮮やかな存在感の役者さん、「翻訳劇のセリフをしゃべっている」ことがわかってしまう役者さんなど、演技の方法の違いが気になりました。あと、もっと笑いがあっていいのではないかと思いました。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 ベントン家の5人兄弟の長男ウィリアム(中嶋しゅう)は世界が終わると知り、末期の大腸がんの手術を受けずに実家に戻る決心をしました。彼が三男ジェイムズ(中村彰男)に家族全員を集めるよう頼んだことで、長年ばらばらだった兄弟が、母マーガレット(倉野章子)がいる実家に集まることになります。

 三男ジェイムズには妻ハリエット(西尾まり)がいますが子供はありません。ジェイムズはかなり変わった性格で、しっかり者のハリエットが彼を支えている状況です。
 次男ジェイク(大滝寛)は17歳の時に恋人を妊娠させ、早くに結婚。生まれた娘ニコラ(安藤サクラ)もまた早くに息子ロイ(碓井将大)を生んでいます。ニコラは売春婦で、ロイのことはジェイクにあずけたまま。
 四男エドワード(古河耕史)は家出して都会でホームレスになっています。五男フィリップ(牧田哲也)はゲイであることを黙って母と暮らしてきました。

 5人兄弟の仲がうまくいかなかったのは、母マーガレットが彼らを愛することができなかったから。なぜなら、彼女は自分の母、つまり5人兄弟の祖母ドリティ(安藤サクラ・2役)に愛されなかったから。ドリティは夫(5人兄弟の祖父)に暴力を振るわれており、カールというユダヤ人の愛人(古河耕史・2役)がいました。ベントン家の元凶はそこにあったのかもしれません。“この親にしてこの子あり”という言葉があるように、子は親に似るんですよね。憎しみが親子代々受け継がれて、同じことを繰り返してしまう人類の悲しみがあります。

 次男ジェイクの孫ロイ(碓井将大)と五男フィリップは同じ年頃(14~15歳)で、なんと彼らは時空を超えたコミュニケーションができます。機動戦士ガンダムのニュータイプ同士みたい!たとえばフィリップは亡くなった祖母と会って、まだ赤ん坊だった母マーガレットを抱くこともできました。終盤の、ロイとフィリップが祖母の愛人カールと会って話をする場面が良かったです。カールはロイとフィリップに赦しを請い、「私を赦すために、まず君たちは自分を赦すことが必要だ」と言います。世界の終わりに、死を目前にした人間が何をするのか。自分自身を赦すことだという考えに共感をおぼえました。

 実は長男ウィリアムはゲイだったのですが、誰にも言わずに亡くなりました。「好きな女の子を大切にしなさい」という祖母の言葉が、彼には呪いになったんでしょうね。自分の秘密を知った(と思われる)次男ジェイクを殺そうとしたぐらい、ウィリアムにとって自分がゲイであることは命にかかわる秘密でした。五男フィリップはウィリアムがゲイであることに気づいており、さらに、自分はゲイだと母にカミングアウトします。長男の無念を五男が受けとめ、自分の存在とともに肯定したことは未来の希望だと思います(『プライド』を思い出しました)。とはいえ、その日に五男もコズミック・ストリングスで死んでしまうんですが。

 長男ウィリアムの体を母マーガレットが丁寧に洗ってあげる場面がありました。中嶋しゅうさんの美しい裸体と、ちょっと不器用そうに体を洗う倉野章子さんが、ひとすじの照明に照らされるのは緊張感のあるいい場面でした。でも、末期がん患者はあんなに立っていられるかしら。洗う時間が長かったのもあり、気になってしまいました。患者は床かベッドに横になったままで、濡れタオルで全身を拭くぐらいがいいのではないかと。

 笑いが起こらなくて残念だったのは、長男ウィリアムが母だけに看取られて亡くなった場面。せっかく家族全員で集まろうと声をかけていたのに、すでに実家に着いていた三男ジェイムズとその妻ハリエットが、ちょうどその瞬間を逃しちゃうんです。ハリエットが枕元を離れたのは人参を取りに行ったせい。彼女が野菜を大量にかかえて呆然としている姿は、それだけで滑稽です。

 一番可笑しかったのは、マーガレットとハリエットが2人で話すところで、ちょっともらい泣きもしちゃいました。嫁と姑という間柄なのに、本当の家族よりもスムーズにコミュニケーションできるのは皮肉ですよね。わがままで情けない男たちと、地に足をつけてしっかり正気を保って働く女たちの対比がよく出ていました。

"A thousand stars explode in the sky" by David Eldridge, Robert Holman, Simon Stephens
出演:中嶋しゅう 大滝寛 中村彰男 古河耕史 牧田哲也 碓井将大 安藤サクラ 西尾まり 倉野章子
脚本:デヴィッド・エルドリッジ/ロバート・ホルマン/サイモン・スティーヴンズ 翻訳:広田敦郎 演出:上村聡史 美術:乘峯雅寛 照明:三谷恵子 音響:小笠原康雅 衣裳:半田悦子 演出助手:稲葉賀恵 舞台監督:加瀬幸恵 技術監督:熊谷明人 宣伝美術:山下浩介 舞台写真:引地信彦 広報・宣伝:飯田裕幸 営業:鶴岡智恵子 票券:小野塚央 制作助手:清水美峰子 制作:赤羽ひろみ プロデューサー:伊藤達哉 穂坂知恵子 主催:S.I.T. 制作:ゴーチ・ブラザーズ 企画協力:文学座映画放送部 提携:公益財団法人せたがや文化財団/世田谷パブリックシアター 後援:世田谷区
【休演日】7/25【発売日】2012/05/26 一般5,000円 U24 2,500円(世田谷パブリックシアターチケットセンターにて要事前登録、登録時年齢確認できるもの要提示、オンラインのみ取扱い、枚数限定) 友の会会員割引 4,500円 せたがやアーツカード会員割引 4,700円
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2012/07/post_283.html
http://www.gorch-brothers.jp/infomation/detail_gorch.php?no=541&cno=1
http://sen-hoshi.blogspot.jp/
http://www.facebook.com/pages/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%88%9D%E4%B8%8A%E6%BC%943%E4%BA%BA%E3%81%AE%E8%8B%B1%E5%9B%BD%E4%BD%9C%E5%AE%B6%E3%81%8C%E5%85%B1%E4%BD%9C%E3%81%97%E3%81%9F%E6%96%B0%E4%BD%9C%E5%8A%87%E5%8D%83%E3%81%AB%E7%A0%95%E3%81%91%E6%95%A3%E3%82%8B%E7%A9%BA%E3%81%AE%E6%98%9F/230730113712757

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 15:39 | TrackBack

ワンツーワークス『みんな豚になる-あるいは「蠅の王」-』07/20-26吉祥寺シアター

 古城十忍さんが作・演出される劇団ワンツーワークスの再演公演です。ウィリアム・ゴールディング作「蠅の王」を現代日本の会社を舞台に脚色された作品です。初演の情報はこちら。上演時間は約2時間弱。

 新国立劇場演劇研修所5期生(修了生)が2人出演されているので観に行きました。古城さんは新国立劇場マンスリー・プロジェクトのリーディングの演出と、昨年の5期生シーンスタディの演出もされていたんですね。

 この作品とは関係ないですが、ロビーで販売されていたジョン・パトリック・シャンリィの戯曲本を購入しました。シャンリィ戯曲は『お月さまにようこそ』も『ダウト』も持っています。

マンハッタンの女たち
ジョン・パトリック シャンリィ
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 ⇒CoRich舞台芸術!『みんな豚になる-あるいは「蠅の王」-

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 パワーハラスメントの実態に迫る
 ある会社の新規プロジェクトに各部署から8人の社員が集められる。元企画推進局次長はリーダーとして意欲に燃えるが、営業三課から配属された女性幹部も「リーダーを任されている」と言う。かくして、プロジェクト・チームはたちまち2分され、徐々に対立が起こり始め、やがて仕事の捗らない者、コミュニケーションのうまくとれない者への、執拗な言葉の暴力が横行するようになる。果たしてチームの面々は無事にプロジェクトを達成することができるのか――。
 ≪ここまで≫

 会社内のパワハラ、というか、いわゆるいじめを描いていました。タイトルどおり“豚”を登場させるのが面白いです。腕をカク、カクと素早く動かしたり、ピタリと息の合ったストップモーション、スローモーションなどの身体表現を採り入れて、ストーリー・テリングだけに終わらない演出も良かったです。
 いかにもな差別発言や悪口が飛び出しますが、デフォルメした演技で見せてくれますから、いじめがリアル過ぎなくていいですね。客観する視点を持ったまま観続けられたのも、私には良かったです。

 ずらりと並ぶ業務用デスクが学校の木製の机にも見えてきました。会社内で大人が経験していることは、子供が通う学校でも起こるものだと思います。

 下記に内田樹さんのブログ「いじめについて」(2012年7月12日)から一部抜粋して引用します。

 私の見るところ、「いじめ」というのは教育の失敗ではなく、むしろ教育の成果です。  子供たちがお互いの成長を相互に支援しあうというマインドをもつことを、学校教育はもう求めていません。むしろ、子供たちを競争させ、能力に応じて、格付けを行い、高い評点を得た子供には報償を与え、低い評点をつけられた子供には罰を与えるという「人参と鞭」戦略を無批判に採用してる。  であれば、子供たちにとって級友たちは潜在的には「敵」です。同学齢集団の中での相対的な優劣が、成績評価でも、進学でも、就職でも、すべての競争にかかわってくるわけですから。  だから、子供たちが学校において、級友たちの成熟や能力の開花を阻害するようにふるまうのは実はきわめて合理的なことなのです。  周囲の子供たちが無能であり、無気力であり、学習意欲もない状態であることは、相対的な優劣を競う限り、自分にとっては「よいこと」だからです。  そのために、いまの子供たちはさまざまな工夫を凝らしています。「いじめ」もそこから導き出された当然の事態です。  「いじめ」は個人の邪悪さや暴力性だけに起因するのではありません。それも大きな原因ですが、それ以上に、「いじめることはよいことだ」というイデオロギーがすでに学校に入り込んでいるから起きているのです。

 ここからネタバレします。

 出世したいがためにプロジェクトで成果を挙げようとしますが、結局は会社が倒産してしまいます。そのプロジェクトの目的は在庫処分なので、集められた社員全員が最初から「棄て石」だったんですね。いじめる人も、いじめられる人も含め、そのプロジェクトメンバー全員が社内では“悪い見本”だったのでしょう。舞台上で行われていたコミュニケーションを反面教師にすればいいんだなと思いました。

 女性幹部(武田竹美)とその恋人であろう若い男性部下(片桐レイメイ)が、一瞬だけイチャつく場面があって、そこが可笑しかったです。オフィスでこっそり年上の女性に甘えてみたら、ピシっときつい言葉を返されて、かえってその若者はデレデレと喜ぶんだもの(笑)。


 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 テーマ:「いじめっ子?いじめられっ子?」
 出演:奥村洋治×越智哲也×林田航平


出演:奥村洋治(ワンツーワークス) 藤敏也 武田竹美 関谷美香子(ワンツーワークス) 越智哲也(ワンツーワークス) 増田和(ワンツーワークス) 片桐レイメイ 林田航平
脚本・演出:古城十忍(ウィリアム・ゴールディング「蠅の王」より)  美術=礒田ヒロシ  照明=磯野眞也  音響=黒澤靖博  舞台監督=尾崎裕  衣裳=加島博美  演出助手=谷本健志  小道具=日暮一成 イラスト=古川タク デザイン=西英一 スチール=富岡甲之  票券=ぷれいす 協力=タクンボックス  アイズ  バックステージ  Gプロダクション 一般社団法人 職場のハラスメント研究所 制作=藤川けい子   製作=(株)オフィス ワン・ツー
【発売日】2012/05/28 全席指定 前売4,000円  当日4500円  高校生以下2,500円
※受付開始および当日券販売開始は開演の1時間前、開場は30分前です。 ※10歳未満の児童はご入場いただけません。
http://www.onetwo-works.jp/nextstage_buta.html


※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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