2013年05月11日
三条会『三人姉妹』05/09-13ザ・スズナリ
三条会は関美能留さんが構成・演出を手掛ける、千葉を拠点に活動する劇団です。色んな戯曲を演出してこられましたが、チェーホフは初めてとのこと。
5/9はプレビューで、料金が一律1,500円だったので素早く予約。やはり完売していました。上演時間は約1時間55分。
⇒CoRich舞台芸術!『三人姉妹』
幕開けから三条会テイスト炸裂でワクワク!チェーホフのセリフを聴くというより、言葉を受け取って、じっくり味わうような時間でした。
舞台中央ぐらいに透明のパネルが貼ってあり、前側と奥側が完全に分断されていました。役者さんの移動も、袖と劇場外部の通路を使わないといけないほどに。パネルの前と奥で演技が同時進行するのは面白いですが、前側での演技に比べると奥側はどうしても声が聴こえづらく、演技が客席まで届きづらいんですよね。私が拝見したのはプレビューだったので、それ以降は何らかの工夫が施されていることと思います。
ここからネタバレします。
チラシで三条会と『三人姉妹』の「三」が重なっていたので、「3」に何か意味があるのかも~と予想していました。その予想が当たったとは言えませんが、3幕までに積み重ねたものが、4幕で昇華される構造だったように思います。
4幕でなぜか演出の関美能留さんが、イスの背に似顔絵を貼っただけで済まされていた老人チェブトイキン役として、初登場します。舞台面側に一列にならべたイスに、キャストが並んで座わり、それぞれに観客に話しかけるようにセリフを言います。『三人姉妹』の登場人物たちは、こんなにも哲学してたんだな~と、まるで初めて出会うかのように、そして今生きて悩む人の言葉を聴くように、味わいました。
出演:大倉マヤ、立崎真紀子、近藤佑子、榊原毅、江前陽平、篠崎大悟(ロロ)、国末武(百景社)、山本晃子(百景社)、山本芳郎(山の手事情社)
原作:アントン・チェーホフ(神西清訳による) 構成・演出:関美能留 舞台美術:石原敬 照明:岩城保 フライヤーデザイン:agasuke 協力:公益財団法人セゾン文化財団
【発売日】2013/04/06 前売・予約 3,300円 わりびき券 1,800円 高校生以下 1,000円 当日券 3,500円 ※ 5/9はプレビュー料金 一律 1,500円
http://sanjoukai1.jimdo.com/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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わらび座『ミュージカル「ブッダ」』05/07-12 THEATRE1010
作曲:甲斐正人、脚本:齋藤雅文、演出:栗山民也という豪華スタッフを迎えた、秋田のわらび座のオリジナル新作ミュージカルです。原作は手塚治虫さんの漫画『ブッダ』。⇒制作発表写真レポート
主役はブッダですが、周囲の人間や人間ではない(とされる)生き物たちの群像劇でした。上演時間は約2時間5分(途中休憩15分を含む)
⇒CoRich舞台芸術!『ミュージカル「ブッダ」』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
遥か古代のインド。
シャカ族の国に、王子シッダールタは生まれた。
王子は「世の中はなぜこんなにも不幸せと争いに満ちているのだろう?」と悩んでいた。
「なぜ生きるってこんなにも苦しくて怖いのだろう?」
王子は答を見つけるために国を捨てた。
修行の旅に出たのだ。
王子の旅は、大発見の連続だった。
世の中は怖いけれど、生きるエネルギーにあふれていた。
感動する出逢い!戦いと別れ!
女盗賊のミゲーラ。
国を滅ぼされ復讐に生きるタッタ。
母が奴隷だったことに苦しむルリ王子。
森の苦行者たち……。
そして答を探す王子の前に、
故郷シャカ族の滅亡が迫っていた……。
※原作では「シッダルタ」ですが、本ミュージカルでは「シッダールタ」として登場します。
≪ここまで≫
人間の善と悪が舞台で描かれると、悪の方が光って見える。人間の弱さ、醜悪さが剥き出しになっているほど、私は惹かれてしまう。わらび座ミュージカル「ブッダ」は、魑魅魍魎が跋扈し、ブッダの周囲に悪が渦巻く場面が白眉。三重野葵さん素晴らしい。化けたと思う。石井一彰さんも良かった。
人間ではない(とされる)者たちとブッダを鮮烈に対比する群像劇。野生を際立たせる群舞が良かった。身体表現はわらび座っぽくないと感じるほどワイルド。ただ、最後にひとつの「宗教」に集約されて、世界が小さくなったように感じたのが残念。受け取り方次第と思います。
ここからネタバレします。
ブッダ(戎本みろ)とタッタ(三重野葵)の場面で、『火の鳥 鳳凰編』の茜丸(戎本みろ)と我王(三重野葵)を思い出しました。戎本さんはご本人の個性(まっすぐ響く声質や清潔感)と主役の貫録が矛盾なく共存。三重野さんはたたずまいが既にオオカミ(=獣)。高いところからジャンプして飛び降りたり、ステージを転がったり、身体能力の高さがタッタ役に存分に活かされていました。復讐をやめるとブッダに誓ったけれど、周囲にあおられて再び復讐へと向かう場面で、舞台中央に一人で立ち、歩く姿から目が離せませんでした。
ブッダの妻ヤショダラと、鳥を演じた宮菜穂子さんの歌と演技が印象に残っています。ドレスに青いショールをはおると鳥になるんですよね。突然動物として舞台に居る演出も良かった。
衣装(松井るみ)の色使いが鮮やかでした。特にルリ王子の青い装束がまばゆくて、それでいて可憐さ、か弱さもあって。石井一彰さんの悪役っぷりも際立ちました。
≪東京、大阪、秋田≫
【出演】シッダールタ:戎本みろ、パセーナディ王・ヤタラ:今井清隆、ミゲーラ:遠野あすか、タッタ:三重野葵、ルリ王子:石井一彰、アンサンブル・デーバ/内田勝之(フリー)、アンサンブル・アヒンサー/田中連太郎(オフィス・クロキ) アンサンブル・語り部/荒川洋(座友) アンサンブル/岡村雄三、長掛憲司、四宮貴久(フリー)、伊藤明大、宇髙海渡(長谷川事務所) ヤショダラ・鳥/宮菜穂子(アトリエ・ダンカン)、アグリ/遠藤浩子 アンサンブル/椿千代、小林すず、工藤純子、古関梓紀、高橋真里子
原作:手塚治虫 作曲:甲斐正人 脚本:齋藤雅文 演出:栗山民也 振付:田井中智子 美術:松井るみ 照明:服部基 衣裳:前田文子 音響:小寺仁 ヘアメイク:鎌田直樹 小道具:岩辺健二・平野忍 歌唱指導:山口正義 ムリダンガム指導:森山繁 舞台監督:石井忍 宣伝写真:三好宣弘 協賛:(株)手塚プロダクション (株)講談社 推薦:公益財団法人 全日本仏教会 社団法人 全日本仏教婦人連盟 天台宗 高野山真言宗 真言宗智山派 真言宗豊山派 浄土宗 浄土真宗本願寺派 真宗大谷派 臨済宗妙心寺派 曹洞宗 日蓮宗 後援:東京都仏教連合会 東京都葬祭業協同組合 東京宗教用具協同組合 共催:足立区シアター1010指定管理者 主催:フジテレビジョン わらび座 企画制作:わらび座
【休演日】5/9【発売日】2013/02/09 全席指定8000円 ※未就学児童のご入場はご遠慮ください。
http://www.warabi.jp/buddha/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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新国立劇場演劇『アジア温泉』05/10-26新国立劇場中劇場
『アジア温泉』は鄭義信さんの書き下ろしで、演出は韓国国立劇団の芸術監督ソン・ジェンチェクさんです(⇒過去レビュー)。
新国立劇場で日韓の作家・演出家・俳優が交流する演劇公演というと、『その河をこえて、五月』と『焼肉ドラゴン』。どちらも両国で数々の賞を受賞しています。おのずと期待が高まる初日に、中劇場に行ってまいりました。
なんとロビーに温泉旅館風の屋台が出ています!射的、足湯ならぬ手湯+柚子茶、マッサージチェアーなど。記念撮影もできますよ~(私は一人だったから看板だけ・涙)。
お芝居にしては音楽と踊りの比率がとても高く、客いじりも積極的で、最初は戸惑いもありました。でも休憩後、物語が急展開するに従って、鄭さん節に笑いながら涙しました。そして最後には、祝祭とは死者と生者の両方を鎮魂するものなのだと体感できました。
上演時間はカーテンコール込みで約3時間弱(途中20分の休憩を含む)。長いですので、客席でギュっと集中するよりも、温泉旅館にいるような感じでリラックスして、舞台上の陽気な空気に前のめりに乗っかっていくといいと思います。今からチケットを買う場合、最前列や通路席だと色々お得かも♪
⇒新国立劇場「演劇「アジア温泉」が初日を迎えました」
⇒いしはらっちさんによる新国立劇場マンスリープロジェクト「With-つながる演劇韓国編-」のレポート(2013/05/16追加)
⇒CoRich舞台芸術!『アジア温泉』
レビューは後ほど少し加筆予定。加筆しました(2013/05/11)。
≪あらすじ≫ パンフレットより。(役者名)を追加。
アジアのどこかにある島は、古い因習としきたりが守られてきた牧歌的な島だった。ところが、島に温泉が湧くという噂が流れ、島民が俗化していくなか、大地(キム・ジンテ)は自分の土地を売らずにがんばっていた。そこに、リゾート観光業に乗り出そうと、カケル(勝村政信)と、その弟アユム(成河)が島にやって来る。カケルは大地の土地を買収しようと交渉するのだが……。
≪ここまで≫
円形にせり出した広いステージで、役者さんは演じる時以外は周囲に待機します。舞台奥には大きなサトウキビたち。周囲は楽器や衣装が並んでいて、音楽家だけでなく役者さんも生演奏します。
日本語と韓国語を、国と人種を区別するのではない方法で使っていました。その意味で『アジア温泉』は、新国立劇場の新しい日韓合作舞台と言えます。関係がもう一歩、先に進んで、形になったんだと思います。
「長いよ!」とキャストからもチャチャが入るぐらい、長いギャグのシーンがあります(笑)。確かに長いんですが、出演者と観客がともにその場でいることを分かち合う、大切な時間でした。そして鄭義信さんの戯曲は、想像を絶するほどの悲劇が起こった時に、人間がどうやって悲しめばいいのか、笑えばいいのか教えてくれます。笑いながら涙があふれ、涙しながら笑いがこみあげてくる。そんな瞬間が連続しました。
ここからネタバレします。
お話の大枠としては『ロミオとジュリエット』でした。島の土地を買収しようとするカケル(勝村政信)とその弟アユム(成河)、先祖代々の土地を守ってきた村長大地(キム・ジンテ)とその後継ぎである娘ヒバリ(イ・ボンリョン)の間に対立が生まれ、アユムとヒバリが恋に落ちます。そしてひょんな事件から、アユムは胸にナイフが刺さってあっけなく死亡し、ヒバリが後を追います。ヒバリがアユムの胸に刺さっていたナイフで自分のお腹を刺すまでが、とてもコミカルに描かれていて、驚くとともに泣き笑いしてしまいました。鄭さんのお芝居のとても好きなところです。
ナイフは百円ショップで売ってそうな、刀の部分を押すとすぐにさやに納まる、プラスティック製のおもちゃのようでした。村長がいる前で、土地ころがしを企む頭の弱い男2人と、アユムが対決することになり、そこで初めてナイフが持ち出されます。その場にいる誰もが武器の扱いに慣れておらず、武器にもてあそばれるかのように、命が失われました。武器はやはり、それが果たすべき役割を果たすものですね。人の手に負えないものです。そして、悲劇はこうやって起こるものなのだと痛感しました。
アユムが持っていた土地買収のための金が村長側のものになり、土地は買収されずに島に残ります。村長の昔の愛人(梅沢昌代)が土地の権利書を持っていたので、どう転んでも土地はよそ者の手に渡るはずだったんです。それが、予想だにしない展開と取り返しのつかない犠牲を経て、名実ともに島のものになります。まわりまわって、めぐりめぐって、落ち着くところに落ち着く。“ひょうたんから駒が出る”かのごとき顛末です。大勢の人間の思惑が複雑にからまる状況では、人間の思考の範ちゅうには収まらない結末が訪れる、それを受け入れるしかないのだと思います。
「温泉が出る」という噂からリゾート開発や土地買収の話が出てきたのだから、温泉が出ないことにはどうにもならないんですよね。なのに人間は見えない大金にむらがって、勝手な夢を見て、大切なものを失っていきます。
温泉を掘り当てようとスコップで地面を掘り続けるおじさん3人組は、いわゆるお笑い担当。ベタすぎて戸惑うほどですが(笑)、三段落ちって本当に笑えるから凄い。民謡の会津磐梯山を歌いながら踊り、掘る姿をほほえましく、時に切なく眺めていると、不意に歌詞が耳に刺さります。
「おはら庄助さん なんで身上(しんしょう)つぶした 朝寝 朝酒 朝湯が大好きで それで身上つぶした ハァもっともだ もっともだ」
心中した(ことにされた)アユムとヒバリの結婚の儀式が最後に行われました。舞台中央天井から吊り下げられていた沢山の白い紐は、束になって神木をあらわしていました。紐にはたくさんの結び目があり、それが枝や実、葉にも見えていたのですが、儀式の場面で人々が紐をひっぱると、次々に結び目がほどけて、紐が長くなっていきます。島の因習や頑なな心が和らいでいくようでした。客席通路まで紐をどんどん伸ばしていき、天井から客席に向かって放射線上にたくさんの紐が広がりました。私も人々の輪のなかにいるような気持ちになり、儀式に参加できました。白装束の人々が祈りを捧げていると、舞台奥からアユムとヒバリが、微笑みながらゆったりとした足取りで、舞台前方へと歩いて来ます。そういえば盆踊りも死者を迎えるお祭りですよね。死者の弔いは生者がこれからも生きるために必要です。祝祭とは、死者と生者の両方の鎮魂なのだ、そして、その生者の中には私も含まれているのだと体感できました。
成河さんとイ・ボンリョンさんのラブシーンがとても爽やかで、微笑ましかったです。成河さんは今作のような正統派ヒーローも出来るし、歌もうまいし、身体能力も高くて、もう非の打ちどころない舞台俳優ですよね。そしてギターがお上手!!⇒お上手な理由
勝村政信さんはドラムセットを生演奏しつつ歌も歌ってらっしゃいました。この作品のために練習されたのかしら。最後の儀式の場面の、うぐいす(巫女?)役のチョン・エヒョンさんの歌が素晴らしかったです。
With-つながる演劇・韓国編-
出演:勝村政信、成河、千葉哲也、梅沢昌代、酒向芳 森下能幸 谷川昭一朗 山中崇 ちすん 江部北斗 朴勝哲 キム・ジンテ チョン・テファ ソ・サンウォン キム・ムンシク キム・ジョンヨン カン・ハクス イ・ボンリョン チョン・ジュンテ チョン・エヒョン キム・ユリ キム・シユル
脚本:鄭義信 翻訳:パク・ヒョンスク 演出:孫桭策(ソン・ジェンチェク) 美術:池田ともゆき 照明:沢田祐二 音楽:久米大作 音響:福澤裕之 衣裳:前田文子 振付:クッ・スホ 演出助手:城田美樹 舞台監督:北条孝 芸術監督:宮田慶子 主催:新国立劇場 協力:芸術の殿堂(ソウル・アート・センター) 韓国国立劇団 後援:駐日韓国大使館 韓国文化院
【発売日】2013/03/16 S席7,350円 A席5,250円 B席3,150円 Z席1,500円
http://nnttplay.info/with3/asia/index.html
http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000622_play.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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