2011年10月19日
マームとジプシー『Kと真夜中のほとりで』10/14-24こまばアゴラ劇場
B5サイズのチラシと当日パンフ
「この団体を観ることなしに、東京のホットな現代演劇シーンは語れないと言って過言ではない」と思う、マームとジプシーの新作です。今回も早々と前売り完売しました。当日券は販売されます。
演劇、ダンス、ミュージカル・・・と舞台芸術作品をジャンル分けするのは容易ではないし、私は必要だともあまり思っていないのですが、便宜性を計るためには有効だと思っています。その意味で言うとこの作品はコンテンポラリー・ダンスに近い気がします。上演時間は約2時間だと開演前の前説で教えてくれたけど、終わらないんじゃないかって思った・・・。
⇒CoRich舞台芸術!『Kと真夜中のほとりで』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
記憶の欠片、揺さぶられて。
繰り返される、言動と行動。
あの真夜中。Kとの思い出。
≪ここまで≫
始まった途端フルスロットル!「えええぇ!いきなり?あぁ素晴らしい!目が離せぬ!」となってしまって、そのまま2時間・・・座席が最前列のベンチだったのもあり(←初日で調子に乗ってしまった!)、とても疲れました。途中で朦朧としてきて、照明と映像と音楽の効果もあり頭が真っ白になって、今まで舞台で起こっていたことがリセットされ、でも繰り返されていることは認識できていて・・・と、もう演劇を観てるんだかどうなんだか、わからない状況に(笑)。目の前で動き続ける光と体に圧倒され続けました。
作・演出の藤田貴大さんがパンフレットに「真夜中という時間だけに取り組んだ」と書かれていました。ある町の住人のある夜の数時間を、それぞれの現在の視点と思い出をもとに何度も繰り返します。でもある人物についての事実が徐々に明かされていくので、コラージュ的な情報の出し方ではあるものの、ストーリーがないわけではありません。
でももう、ストーリーとかどうでもよくなっちゃったなー(笑)。人が、目の前で、ある決まった行為を、必死で繰り返している、空間。でもその繰り返しは当然のことながら、全く同じではなくて。動き続ける人物と戦うように変化する音楽、照明とともに、作品を全身で浴びました。
これまでの作品でも感じていたことですが、「同じセリフを繰り返し言う」ことを、さらに繰り返すことで、舞台に生まれる世界(俳優が演じる人物が暮らす街)のリアリティーが、情報ではなく肉感として厚みを帯びるように思います。この作品ではその先へ行ったんだと思います。
ここからネタバレします。
ある夜、突然いなくなった少女ケイ(K)。湖のほとりに靴が揃えて置いてあったから、おそらく自殺したのだろうと予想されますが、本当のところはわかりません。「ケイに縁のある人もない人も、続々と湖に集まってくる」展開に自分自身の気持ちの盛り上がりがあったのは確かですが、“ケイ”に執着する人が多すぎるように感じました。でも2回ご覧になった方がおっしゃるように(⇒1、2)、席によるのかもしれませんね。私はしんみりムードを過剰に感じて首を傾げ気味。
部屋のぬくもりを伝えるオレンジ系のランプ、じりじりする蛍光灯、劇場をライブハウスのようにする映像、そして音楽。音楽には全く詳しくないので曲名などはわかりませんが、すごく良かったです。
出演:伊野香織 大石将弘(ままごと) 大島怜也(PLUSTIC PLASTICS) 荻原綾 尾野島慎太朗 川崎ゆり子 斎藤章子 坂口真由美 高橋ゆうこ 高山玲子 成田亜佑美 波佐谷聡 萬洲通擴 召田実子 吉田聡子
脚本・演出:藤田貴大 舞台監督:森山香緒梨 加藤唯 照明:吉成陽子 山岡菜友子(青年団) 音響:門田理枝 美術協力:細川浩伸(急な坂アトリエ) 演出助手:佐藤○子 吉田彩乃 宣伝美術:本橋若子 パンフレット製作:青柳いづみ 制作:林香菜 企画制作:マームとジプシー/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 主催:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
予約2500円 当日2700円 ※当日券販売は開演の60分前より
http://mum-gypsy.com/next/10k.php
http://www.komaba-agora.com/line_up/2011/10/mum-gypsy/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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ゴジゲン『極めてやわらかい道』10/06-23駅前劇場
松居大悟さんが作・演出・出演される劇団ゴジゲンの新作は、下北沢の駅前劇場で約3週間のロングラン公演。強い個性のある達者な役者さんが多数客演されています。上演時間は約1時間45分。
松居さんは演劇だけでなく映画も創作されているんですね。監督作品「アフロ田中」は来年2月に上映開始です。主演は松田翔太さん。
⇒CoRich舞台芸術!『極めてやわらかい道』※CoRichでカンタン予約!
≪あらすじ≫
舞台は現代の福岡の、男たちが暮らすアパートの一室。厳格なルールにのっとり、彼らは“姫”を見守り続けていた。
≪ここまで≫
細かいところまで作り込んだ具象の美術。小さく閉じたあるコミュニティーが、幕開け早々に外界と交わる時点でわくわく!でも、その後の広がりや飛躍があまりなかったのが残念。
役者さんでは中間管理職的な立場でダメっぷりを見せる吉田亮さんが良かったです。
ここからネタバレします。
ダメな彼氏の借金を返すために風俗嬢となったミキ姫をストーキングする男たち。その彼氏にまとわりつく借金取りの2人組が、ストーカー男子たちの城(国)に乗り込んできた。
ある女性を10年も見守り続ける、しかもひきこもって。まあ正常ではないですよね。
とうとう姫と対面した男子(辻修)の、「くちクサッ!」が最後のセリフでした。愛する人と接してもいいことばかりあるわけじゃない、むしろ他者に対する違和感や嫌悪感が付きまとうもの。きれいごとではない現実とぶつかった、その後が観たかったです。
平成二十三年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業 日本の演劇人を育てるプロジェクト 新進劇団育成公演
出演:川島潤哉 辻修(動物電気/モッカモッカ) 野中隆光(THE SHAMPOO HAT) 東迎昂史郎 松居大悟 村上航(猫のホテル/表現・さわやか) 目次立樹 吉田亮(ハイバイ) (五十音順)
脚本・演出 / 松居大悟 舞台美術 / 片平圭衣子 照明 / 伊藤孝(ART CORE) 照明操作 / 上原皓介 音響 / 田上篤志(atSound) 音楽 / 森優太 映像 / 大見康裕 衣裳 / 横田真理 本間圭一 演出助手 / 久保大輔 演出部 / 秋山拓弥 舞台監督 / 川除学+至福団 宣伝美術 / 今城加奈子 宣伝写真 / 松本のりこ WEB / 飯塚美江 アシスタント・プロデューサー / 武藤香織 小野塚央 西川悦代 プロデューサー / 北川隆来 企画 / ゴジゲン 制作 / 社団法人日本劇団協議会 主催 / 文化庁
【休演日】10月11・18日(火)【発売日】2011/08/27
全席指定席・税込 前売3,000円/当日3,500円/学割2,500円(要学生証提示)
http://www.5-jigen.com/next.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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遊園地再生事業団『トータル・リビング 1986-2011』10/14-24にしすがも創造舎
やっと、やっと、フェスティバル/トーキョー11に初参戦!!(⇒記者発表)あー長かった・・・先月から忙しすぎて。にしすがも創造舎ではいつものF/Tの空気が!懐かしい気持ちさえしてしまった(嬉涙)。折込チラシも全然他の公演とは違うな~。これまたやっと『カオス*イグザイル』のチラシをゲット。
メルマガでF/T11私的オススメ3本だった『トータル・リビング 1986-2011』は、バブル以降から今までの日本の空気を、冷静さを保ったまま観察して味わいなおす、私にとって知的思索と郷愁の時間でした。時々爆笑しつつ!(笑)
上演時間は約2時間30分弱(途中10分間の休憩2回を含む)。休憩2回がすごく良かったです。
いつも思うけど高校生以下1,000円って激安!感度の高い中高生はF/Tに集っちゃうといいよ!若い人には10/26から始まるバナナ学園純情乙女組(⇒当日精算チケット予約)も観てもらいたいです♪
⇒CoRich舞台芸術!『トータル・リビング 1986-2011』
レビューはネタバレ前までです。※加筆しました(2011/10/26)。
真っ白な床に、真っ白で四角い柱が上下(かみしも)に並ぶ、シャープでクールな空間。『トーキョー/不在/ハムレット』を思い出しました。舞台中央奥の上部に大きなスクリーンが設置され、舞台上の演技をカメラで撮影した映像がそのまま中継されます。あのスクリーンの形状は映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズによく出てくる看板に似てるな~。舞台奥を横切る腰の高さぐらいの壁の上部に沿って、オレンジ色の直線が引かれています。立ち入り禁止区域に貼られたテープみたい。
パステルカラーのカジュアル系の衣装はかっこいいし可愛いんだけど、ちょっと古い気も。狙いなのかもしれませんが。
役者さんの演技(存在の仕方)に均一性は見つけられなかったので、けっこう自由なんじゃないかと想像。メガネをかけたリーダー的存在の男性のツッコミに何度も笑わせていただきました。※パンフレットの出演者情報には役者さんがどの役を演じたのかを載せて欲しいです。ヒントだけでも!
冷静さを保ったまま時を行き来して、独特の浮遊感を味わいました。音楽も気持ち良かったですね。映像のための立ち居地で演技する俳優を、客席から眺めるのが面白いです。何でも映像で記録されるインターネット社会、無数の視点から多層に分類される世界などを考えました。2011年と1986年を対比する構成ではありましたが、“現代日本人”を描いていたように思います。
私個人のことですが、触れたくないニュースに触れるようにして、日本が平和な状態ではないことを常に意識するように日々生きています。そういった舞台や映画なども観るようにしているので、最後はよくある収束方法で、説明過多に感じました。
ここからネタバレします。セリフは全く正確ではありません。
第一幕は映画学校が入ったビルの屋上。サラリと屋上から飛び降りる(自殺する)人が何度も出てくるのは、1986年に四谷三丁目のビルで飛び降り自殺をした女性アイドルでもあり、今年5月に首つり自殺したグラビアアイドルでもあり、毎年3万人以上の自殺者がいる日本のことも示しているんでしょうね。『転校生』を思い出しました。何でもかんでもビデオを回して録画し、生き急ぐ2011年の若者たちは、インターネットがほぼインフラとなった世界で生まれ育った子供たちの宿命だと思いました。
対して第二幕の1986年の大人たちののんきなこと!ビンゴゲームの場面は苦笑・失笑の連続でした。パーティーの映像も凝ってて可笑しかった。高度成長期に生まれてバブルの時代の空気だけは知っていた私は、いわゆる“現代日本人”なのだと思います。だから全幕通して登場する「欠落のある女」、「忘却の灯台守」とは私自身のこと。自分に足りないものがあるのはわかっているけれど、それを探すのは他人まかせ。定点から周囲に広く光を照らして情報収集をするものの、次の日にはすべて忘れてしまっている。なぜ生きているのか、生かされているのかに疑問も持たなければ、その問いがあることに気づきもしないで、何でも誰かの、環境(国とか)のせいにして生きてきました。でも今は違う。この国にいて今までどおり平穏に生きることができなくなったからです。
落涙ポイントは映像に出演者の上半身が映り、その人が心の中で思っていることが字幕で出るところ。「ギターを弾かされるなんて」などで爆笑するんですが、「声が聞きたいんだ(声を集めたいんだ・?)」で気持ちが反転。大量の噂話と信用できない報道にかき消され、「反論するなら対案は?」「あなただけ助かりたいの?」といった心無い怒号にうずもれていく、私たち一人ひとりの思いをこそ、すくい取りたい。感じ取りたい。そして分かち合いたい。肩を震わせて泣いてしまった。
ドキュメンタリー映画の監督で映画学校の講師もしている男性(永井秀樹)は、3月11日に福島県の海辺で灯台で働く人々を撮影していて、亡くなっていました。これまで舞台で描かれた全ては、死んだことに気づかずさまよっている講師の追憶であった・・・というパッケージは、ない方が良かったです。第3幕の序盤までにあらわされた、伸縮自在で何が起こるかわからない刺激的な時間が、小さく具体的な世界に閉じ込められてしまったように思いました。「欠落のある女」と「忘却の灯台守」が一人の人間に色づけされてしまって残念。
ステージ上に等間隔に並べられた目覚まし時計やフライパンなどの日用品は、この震災で亡くなった方々、そして今生き残った私たち一人ひとりを示すものだと受け取りました。だとすると少々ありがちすぎるんじゃないか、とも。舞台からおもむろに立ち上がり、天に向かって浮かび上がったもの(=芝居)を遠く(=客席)から観察して味わい、咀嚼していたのに、舞台から生まれるもののベクトルが客席に向かう直線へと(垂直のカーブをきって)変化したことで、私の心は閉じてしまいました。“ストーリー”はいらなかったな~。
フェスティバル/トーキョー実行委員会
出演:上村聡 牛尾千聖 大場みなみ 上村梓 今野裕一郎 時田光洋 野々山貴之 橋本和加子 矢沢誠 永井秀樹
脚本・演出:宮沢章夫 美術:林巻子 音楽:杉本佳一(FourColor/FilFla) 衣裳:山本哲也(POTTO) 照明:齋藤茂男(シアタークリエイション) 音響:半田充(MMS) 映像:今野裕一郎 ドラマトゥルク:桜井圭介 舞台監督:田中翼、大友圭一郎 演出助手山本健介、石原裕也 宣伝写真:小山泰介 デザイン:相馬称 制作:ルアプル(金長隆子) 製作:遊園地再生事業団 共同製作:フェスティバル/トーキョー 主催:フェスティバル/トーキョー
【発売日】2011/08/28 自由席 一般 前売 4,500円(当日 +500円) 学生 3,000円、高校生以下 1,000円(前売・当日共通、要学生証提示)
http://www.festival-tokyo.jp/program/TotalLiving/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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