2013年11月10日
東京グローブ座『Some Girl(s)』10/25-11/10東京グローブ座
アメリカの劇作家、映画監督のニール・ラビュートさんの戯曲を箱庭円舞曲の古川貴義さんが演出されます。ジャニーズ事務所所属の三宅健さんが主演する舞台です。上演時間は休憩なしで約2時間。ラビュート作品のレビュー⇒1、2、3、4
若い男性が元カノに会っていくお話で、主役の三宅さんが4人の女優さんそれぞれと2人芝居をしていきます。三宅さんはほぼ出ずっぱりで、しゃべりっぱなし。なかなかにハードルの高い役にチャレンジされていました。女優さんは4人とも綺麗でした。
劇場入り口付近のポスターです↓
⇒CoRich舞台芸術!『Some Girl(s)』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
講師の仕事をしながら、小説を書いている主人公。
婚約者との結婚を前に、アメリカ各地を旅行し、昔の恋人達に会いに行く。
結婚という人生の大きな1歩を踏み出すにあたって、過去に、かつて自分が傷つけてしまったであろう恋人達とそれぞれ会い、どうにかして償い「間違いを正したい」と思っている。しかし女性達は、突然の男性の訪問に戸惑い、あまり歓迎していない様子。
物語、つまり男の旅が進行するうちに、次第に見えてくる様々な事実。
── 女性達がずっと胸に秘めていたもの、男に求めたそれぞれの償いのかたちとは?
── そして、男の本当の目的は何なのか? 果たしてこれは誰のためなのか?
≪ここまで≫
舞台はホテルの一室。2階建ての具象美術で、2階部分の壁に映像が映し出されます。アメリカの主要都市を旅するので、その土地らしさを出す工夫が面白かったです。部屋が転換ごとにがらりと変わるのも見どころ。たとえばベッドの上に載せる枕やクッションなどが、いかにもアメリカっぽいデザインなんですよね。あるある~と頷きながら拝見しました。転換要員として3人の俳優さん(?)による家具移動ダンスが観られます。これがまた音楽に合ってるし、楽しかったです。古川さんといえばDJとしても活動されていて、劇団公演でも個性的な選曲が印象に残ります。この作品では選曲がとってもフィットしていると思いました…が、選曲ではなく、オリジナル曲でした。凝ってますね。
帰り道にふと想像しました。2人芝居を4つ作る以外の可能性もあったんじゃないかしら、と。たとえば中屋敷法仁さんだったら、どの順番で付き合っていたか等をわかりやすくするために、戯曲には登場しない人物も出したんじゃないかな~とか。いえ、今回の演出が悪いとは全く思っていません。あまりに潔く2人芝居×4だったものですから。
三宅さんにガンガンにケンカを売っていくボビー役の村川絵梨さんがとても良かったです。翻訳劇によくある「なんとなく外人っぽい言葉遣い」が全くなく、その人として舞台にいらっしゃいました。
ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。
小説家の男性(三宅)はニューヨークからシアトルに飛んでサム(宮地真緒)に会い、シカゴでタイラー(岡田あがさ)、ボストンでリンジー(村岡希美)に会って(リンジーにこっぴどくいじめられて)、最後にロサンジェルスでボビー(村川絵梨)に会います。タイラーとの濃厚キスシーンは最初、客席の空気の凍り具合がすごかった(笑)。とてもエロティックでいい場面でした。下着姿を披露された村岡さんの抜群のスタイルに見惚れました。大人のエスプリが効いたコミカルな演技も素晴らしかったですね。
だいたいフィアンセがいるのに、なぜわざわざ飛行機に乗って元カノたちに会いに行くんでしょうか。その理由は最後のボビーとの場面でわかります。注目された彼の著作は、自分自身の恋愛遍歴について書いたものでした。味を占めた彼は、元カノとの再会をネタに新作を書こうとしたんですね。ホテルでの会話をすべて録音していたのです。ボビーに追いつめられて、とうとう、心の奥にある本音を絞り出すように、「自分は結婚しようとしているけど、本当に愛したのは、今も愛しているのは君なんだ」と叫びますが、ボビーはひとこと「もう遅いよ」。
ボビーが去った後、ホテルにフィアンセから電話がかかってきます。にこにこしながら「愛してる」と何度もつぶやく彼にスポットが当たりました。そう、ただの、根っからの嘘つきなんですよね。そして元カノたちの証言からすると、常に自分から相手を振ってきた、というか、逃げてきたダメ男です。特にリンジーのエピソードではよくわかります(夫のいるリンジーとの不倫がばれたとたん、大学を辞めて違う土地に逃げた)。三宅さんがもっともっとダメっぷりをさらけ出してくれると、ラストの意味がより伝わるだろうと思います。
≪東京、大阪≫
出演:三宅健、宮地真緒、岡田あがさ、村岡希美、村川絵梨
作:ニール・ラビュート 翻訳:髙田曜子 演出:古川貴義 美術:中根聡子 照明:佐藤啓 音響:加藤温 映像:横山翼 石田肇 衣裳:ゴウダアツコ ヘアメイク:大宝みゆき ステージング:丸山和彰(CAVA) 演出助手:長町多寿子 舞台監督:林和宏 宣伝美術:永瀬祐一 宣伝カメラマン:廣田美緒 宣伝スタイリスト:ゴウダアツコ 宣伝ヘアメイク:惣門亜希子 SHINICHIRO 永嶋麻子 フジワラミホコ 宣伝PR:ディップス・プラネット 制作:赤羽ひろみ 制作助手:加藤恵梨花 キャスティング:明石直弓 プロデューサー:山下秀樹 伊藤達哉 時田曜子 エグゼクティブプロデューサー:藤島ジュリーK. 主催・企画製作:東京グローブ座 制作協力:ゴーチ・ブラザーズ 運営協力:キョードー大阪(大阪公演)
【休演日】10/30 11/6【発売日】2013/08/31 全席指定S\8,500 A\7,500 B\5,500
http://www.somegirls.jp/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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鳥の劇場『「セールスマンの死」(日中韓俳優出演・3ヵ国語版)』11/09-10新国立劇場小劇場
総合パンフレット
第12言語演劇スタジオ『多情という名の病』に続いて、第20回BeSeTo演劇祭の国際共同制作作品を拝見しました。
アーサー・ミラーのピュリッツァー賞受賞作『セールスマンの死』を、鳥取を拠点に活動する鳥の劇場の中島諒人さんが演出。2012年初演で、今回は中国、韓国、日本の俳優が出演する3か国語版となります。上演時間はカーテンコール込みで約1時間40分。
私なんかが今更言うことではないですが、『セールスマンの死』は本当にいい戯曲ですね。今年2月に文学座で観たばかりだったので、比較できたのも良かったです。
⇒CoRich舞台芸術!『「セールスマンの死」(日中韓俳優出演・3ヵ国語版)』
《作品解説》 公式サイトより
アメリカ現代演劇を代表する劇作家アーサー・ミラー(1915-2005)が、ピュリッツァー賞を受賞した戯曲です。鳥の劇場で2010年12月に初演された作品を、国際共同作品として再演します。約60年前にアメリカで書かれた戯曲を通して、グローバル経済が席巻する今の世界を見つめ、働くことの意味、生きることの意味、家族の意味を問いかけます。
《ここまで》
下記は鳥の劇場公演の舞台写真です(公式サイトより)。装置は今回も同じ。
登場人物を減らし、エピソードも多数カットされていますが、戯曲の芯の部分はしっかり伝わってきました。父ウィリィは中国語、母リンダは韓国語、息子ビフは日本語というように、異なる言語で話すけれど言葉が通じているように演じます。1949年初演のアメリカ戯曲を中国人、韓国人、日本人が演じ、しかも資本主義のシステムによって崩壊していく家族を描いた作品なので、現在の世界情勢、日本の社会問題などが自ずと頭に浮かんできて、お芝居と重なってきます。
「最初っからタイトルでネタバレしてるやんっ!」と突っ込む関西のおばちゃん2人組が、ちょくちょく出てきてちょっかい出してくれるのが楽しいです。息抜きとしても大いに機能していました。それにしても全体的に暗すぎたと思いますね(おばちゃんたちも「暗い!」って言ってたけど・笑)。私の場合、暗い話を暗くやると、その暗さを暗さそのものとして受け取りづらくなります。暗さを舞台上で過剰に表すことはせずに、観客の心の中で形作られるよう誘導する作品の方が、演劇体験としては好みです。
ここからネタバレします。
お金持ちになりたい、有名になりたい、特別な存在でいたいという欲望から逃げられない男たちと、その夢に依存する女(母リンダ)。そんな図として観ていました。功名心って今も昔も変わらないなぁと思います。「金持ち=有名人=勝利者」と洗脳されてしまうと不幸せだなぁとも。中島さんはこの戯曲について「資本主義という物語の魔力的側面を的確に捉えている」とパンフレットで評されていました。
ウィリィは息子との関係が少し回復したことで、会社をクビになったものの、前向きに生き直そうとしているかのように見えました。でも一攫千金に成功した兄の姿が脳裏にちらつき、やはり保険金目当てで自殺してしまいます(自分の車で事故を起こして死亡)。葬儀に誰も来なかったということは、ウィリィは他人が喜ぶことをしてこなかったんだろうな~。
よく流れた日本語の歌は「ひらいたひらいた」(UA)と「月の砂漠」。選曲や鳴るタイミング、音量がSCOTっぽかったです。
第20回BeSeTo演劇祭 鳥取公演プログラム
出演:高橋等 王衛國(東京公演のみ) ユン・ジンヒ 葛岡由依 中垣直久 赤羽三郎(鳥取公演のみ) 村上里美 中川玲奈 声の出演:榊原毅 中島諒人
原作:アーサー・ミラー 翻訳:倉橋健 演出:中島諒人 舞台美術:来間直樹 タカマスヨシコ 照明:田中陽一郎 音響:石井俊祐 舞台監督:岩崎健一郎 山本朋幸 通訳(鳥取公演のみ):田川智子 チャン・ウンジン
前売・当日共 一般:3,000円 学生:1,500円 *全席指定
http://www.birdtheatre.org/engekisai/program/salesman.php
http://www.beseto.jp/20th/program/tottori_prog01.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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