REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2007年05月25日

POTALIVE 駒場編vol.1『museum』05/13, 19井の頭線駒場東大前駅西口改札前待ち合わせ

 POTALIVE(ポタライブ)とは、「散歩をしながら楽しむライブ」のこと(公式サイトより)。好評だった2006年3月公演の再演だそうです。私は初体験。5/13に伺いました。

 15:30に駒場東大前駅で待ち合わせて、案内人の岸井大輔さんが約15人の観客(というか参加客)一人一人に、今回の“お散歩”についての丁寧な説明をされました。
 この作品のために岸井さんが駒場を歩き回り、住人にインタビュー取材をした期間はなんと3ヶ月!その成果が溢れんばかりに詰まった約2時間のお散歩は、1930年代の日本陸軍の若者とともに軍事演習所だった駒場野と出会う旅でした。

 あぁ、写真撮ればよかった・・・。そんな気分にならないほど、どっぷりとお散歩を味わっていたんですね。POTALIVEの次回公演は今年の8/4~9/4。こまばアゴラ劇場夏のサミット内の企画です。

 CoRich舞台芸術!⇒『museum
 レビューをアップしました(2007/07/31)。

 駒場東大前・・・。20代の頃の私にとっては鬼門でした。学生時代に東大で劇団活動をしていたんですが、それがほとんどトラウマになっていてですね(苦笑)、数年前までは駅に降り立つことさえもできませんでした。でも今ではこまばアゴラ劇場の最寄駅ということで、ウキウキする場所になっています。
 待ち合わせ前に昔の彼氏のアパートを見に行ってみたら(←痛いよ、しのぶさん!)、大きなマンションに建て替えられていました。もう15年以上経つのかな。

 そんなプライベートな思い出が満タンの駒場東大前が、岸井さんのガイドによって全く違う側面を見せてくれるようになります。京王帝都井の頭線・駒場東大前駅から東大敷地内の森林、駒場小学校の明治天皇駒場野聖跡碑を見て駒場野公園へと進みました。

 1936年(昭和11年)のニ・ニ六事件(Wikipedia)等にまつわる膨大な知識を披露しながら、岸井さんは時に案内人、時にインタビューを受けた老人などになりきって語りつつ、散歩を誘導していきます。最初はとっつきにくかったんですが、ただ導かれるままについていって、森林浴をし、語られる情報を頭に入れて味わって、無理をしないで考えながら歩きました。それは単純に気持ちのいい“団体散歩”の時間でした。 

 ダンサーの木室陽一さんが坂を駆け下りるように舞う姿を彼の背後から見つめた瞬間、自分が観ていた風景がぐにゃっとうねる様に変化しました。「駒場野公園の脇の道」がただの「道」ではなくなったのです。童話に出てくる空に浮かぶ道のような、夢に見た秘密の抜け道のような、私の死んだ曽祖父・曾祖母が今も歩いている道のような、三次元以外の性質(っていうのかな)を持つものになったのです。

 そこからは驚きの連続でした。淡島通りの車道を馬が走っているように感じたり、自分が歩いている歩道や壁が「いらっしゃい」と語りかけてきたり。大砲の訓練をしていた広場では、汗だくで走る若い兵隊さんが見えたような気がしました。昔の男子学生がぽつんと佇んでいる風景は、どこかの写真集とか映画とかで見たような、ものすごく絵になるものだったりもしました。岡田利規さんはアンゲロプロスっておっしゃってますね。

 道に、演劇がある。家に、物語がある。日常の中に、夢がある。演劇は、私が今見ている、生きている瞬間に存在しているものなんですね。それを可視化してくれたんだと思います。劇場というハコの中に入って夢を見るのも素晴らしいことですが、実は何も特別な行動をしなくたって、目の前にソレはあるんだってことを証明してくださいました。

 生半可な努力では成立せし得ない作品だと思います。体験しながら構造のことを探ったって徒労になるだけな気がします(あまりに深くて巧妙だから)。だから観客は、難しいことを気にせず、ただ素直に味わうことが大事なんじゃないかしら。一人の人間として、触れて、感じること。それを大らかに許してくれる参加型演劇でした。

 ここからネタバレします。

 最初の集合場所で岸井さんから「タイトルを『museum』から『アラ』にアラためます」と言われました。「ミュージアムって言ったって、駒場の駅前にはそういうのは見当たらないし」という理由だったのですが、ちゃんと最後に『museum』も上演されたんです。

 歩兵第1連隊中尉だった栗原安秀の家から松見坂に出て、終幕。最後に上演された短編『museum』には、山の手通りとそこから見える風景全体が、外国人に日本を紹介するために作られた美術館だったという結末が用意されていました。それを深く納得するために、駒場東大前駅からの散歩(『アラ』)がありました。確かに最初から『museum』というタイトルだったら、2時間の散歩が『museum』を説明するためのものになってしまい、興ざめだったかもしれません。

 実は『museum』も散歩の始まりから『アラ』と平行して味わっていたんですよね。戦時中の学生のような風貌の男の子2人と、テンションが高すぎるヘンな女性ダンサー(笑)が、道中のところどころで「駒場っていいな~♪」という歌を大声で歌ったりしつつ、演技をしていました。『アラ』という全く違う作品を体験することで『museum』(の結末)が理解できるという仕掛けは見事だと思います(『museum』に『アラ』が含まれていたと考えればいいのかも)。

 車が激しく行き交う山の手通りをバックに、戦時中の男子学生と女性ダンサー、岸井さんが現れたラストシーンでは、昭和の日本人(私のご先祖様)と私とが東京の町(道)に溶け合ったように感じ、しばらくその風景の中に、じーっとたたずむことにしました。でも次の予定が詰まっていてすぐに帰らなきゃだめだったんですよね・・・残念。

 人間は変わりますね。全く解決されないまま放置された問題も、時間が経過することで何らかの形になるんですね。でもその形状が変化し続けるんですが。私たちはその変化の瞬間瞬間を生きているんだと思いました。

『アラ』
出演:垣内友香里(ダンサー/BennyMoss主宰) 木室陽一(振り付け家・ダンサー/POTALIVE主宰) 笠木真人(俳優) 愛川武博(俳優・演出家/演劇集団 移動する羊主宰)
作・演出・案内=岸井大輔(劇作家/POTALIVE主宰)
『museum』
出演:垣内友香里(ダンサー/BennyMoss主宰) 笠木真人(俳優) 愛川武博(俳優・演出家/演劇集団 移動する羊主宰)
作・演出・案内=岸井大輔(劇作家/POTALIVE主宰)
http://d.hatena.ne.jp/POTALIVE/

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガも発行しております。

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ
Posted by shinobu at 23:08 | TrackBack

ジェットラグ・プロデュース『バラ咲く我が家にようこそ。』05/24-27シアターサンモール

 明日図鑑の牧田明宏さんの脚本を青年団リンク・東京デスロックの多田淳之介さんが演出されます。文学座の坂口芳貞さんや毛皮族の町田マリーさん、元ク・ナウカの寺内亜矢子さんなど、演劇界(特に小劇場)の夢のタッグ、みたいなキャスティングのプロデュース公演。はてさて。

 ⇒CoRich舞台芸術!『バラ咲く我が家にようこそ。』 

 ≪あらすじ≫
 バラが好きだった妻がコンビニ強盗に殺されて以来、残された夫・小出(坂口芳貞)は一人娘の智美(町田マリー)と二人暮らし。犯人が捕まること待ちながらもう三年経つが、何の手がかりもない。バラが枯れたままの家に招かれざる客人たちが訪れ・・・。
 ≪ここまで≫

 バラが咲かない家のお話なのに、タイトルが『バラ咲く我が家にようこそ。』なのが牧田さんのセンスですよね~。素敵です。

 個性の強い役者さんが揃っていますから、その人なりの存在感で舞台に居てくださるだけでも退屈はしないんですが、物語の行く先やこの作品の勘所を役者さん全員で共有しているようには感じられませんでした。「まだ完成してません」って感じなのかな~。プロデュース公演ならではのバラバラ感と言えるかもしれません。

 犯人探しのサスペンスなムードが出てきた時、グイっと引き込まれる感覚はありました。でもそういうのは重要じゃない気がします。ストーリーが面白いかどうかというと、特に面白くはないと思うんですよね。でもこういう戯曲の場合は筋書きの面白さが重要なのではなくて、瑣末な会話や奇妙な仕草の積み重ねなどから、人間の悲しさ、滑稽さをゾクっとくるほど感じられることが、大切なんじゃないかしら。あと、もっとカラっと笑いたかったな~。

 選曲が素晴らしかった・・・!!もー鮮烈ですよ、あの女性ヴォーカル!そして歌詞もストーリーにぴったり。同じアーティストの曲がずっと使われるので、まるでこのお芝居用にサウンドトラックを作ったみたいです。

 ここからネタバレします。

 大切な人を誰かに殺された(と信じ込んでいる)人々の暗~いお話でした。恨みが循環してしまうんですね。小出の妻を殺したのは智美の彼氏(大口兼悟)だったと匂わせ、何かが解決したかのようにしながら、そこで終わらなかったのが良かったです。
 自殺した警備員(山本雅幸)の妹(甲衣都美・弁護士?)が、兄を殺したのは小出だと思い込んで小出につきまとうようになります。ちょっとおかしいですよね、その人。そういう「それ、おかしくネ?!」って突っ込みたくなるような行動が現れる時に、ゾクっときたり、にやっと笑えたり、感情に波が立つような刺激が欲しいなと思いました。

 オープニングとエンディングの演出が良かったです。シアターサンモールに備え付けの(おそらく)カーテンのような幕が上がると、登場人物全員が舞台に居て、ゆらゆら揺れていました。一人ずつぱらぱらと去っていって、静かにお話が始まります。ラストもいわば同じ演出でした。それぞれの悲惨な人生を舞台でさらしていた登場人物たちが客席に向かって立ち尽くす姿は、まるで箱庭の中の人形のように見えました。オープニングと同様に幕が降りることで、人形達の悲しいおとぎ話がパッケージにすっぽりと入れられたような効果がありました。

出演=大口兼悟、町田マリー、寺内亜矢子、吹上タツヒロ、夏目慎也、山本雅幸、本多裕香、甲衣都美、坂口芳貞
作=牧田明宏[明日図鑑] 演出=多田淳之介[東京デスロック] 舞台監督=伊東龍彦 舞台美術=鈴木健介 照明=岩城保 音響=泉田雄大 衣裳=原竹武臣 宣伝美術=宇野モンド 宣伝写真=可児保彦 演出助手=佐山和泉 web担当=高橋直人 当日票券=三村里奈(MRco.) 制作=ジェットラグ&田辺恵瑠 プロデューサー=阿部敏信 企画・製作=ジェットラグ
【発売日】2007/04/15(全席指定席・税込)前売り¥4,000 当日¥4,500
http://www.jetlag.jp/

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガも発行しております。

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ
Posted by shinobu at 22:36 | TrackBack

ハイバイ『おねがい放課後』05/24-06/03こまばアゴラ劇場

 ハイバイは岩井秀人さんが作・演出される劇団です。岩井さんが関わっている作品はこれまでに7作ほど拝見しました(過去レビュー⇒)。
 ハイバイを初めて観てから1年と4ヶ月しか経ってないんですね・・・ちょっと驚き。岩井さん、多作ですよね。

 「CoRich舞台芸術まつり!2007春」審査員として初日に伺いました。レビューはCoRich舞台芸術!に書きました。どうしてもプレビュー公演と比べちゃうので、その感想をこちらに。

pia_interview.JPG
記事を壁に貼ってくださってます

 ★追加公演決定!
  6月1日(金)15時~の回
  売り切れ続出中です。急いでご予約を!

 Weeklyぴあ(5/24発売号)に記事を書かせていただきました。アゴラ劇場の階段入り口付近に記事を貼ってくださっています。どうぞご笑覧ください♪

 CoRich舞台芸術!『おねがい放課後

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。
 1年に4歳、年をとってしまう奇病に悩む、見た目おっさんの大学生、
 志賀君。
 と、それを取り囲む家族や同級生達の絶妙な気の遣いようと、
 大学での志賀君の活躍が、新しい顧問の先生のせいで
 台無しになる様子を、自意識がバツグンに冴え渡る二十歳くらいの精神状態を下地に
 その自意識をさらに助長させる恋愛、友情、苛立ちとナルシズムと性欲で味付け、
 皆がドロドロと放課後におねがいしたものについて書き連ねます。
 ≪ここまで≫

 開演前に主宰の岩井さんが前説をされました。「1年に4つ年を取るってことなんですが、4日ぐらい前に計算したら、志賀ちゃんは20歳なので80歳になっちゃうんですよね。なので1年に3歳ってことに、設定を変更させてください」とのこと。笑いました(笑)。

 ここからネタバレします。

 プレビューの時とは反対側の席に座ったおかげで、よく理解していなかったことに気づいたり、味わい尽くせていなかったことを満喫できたり、改めて作品の深さを知ることができました。
 
 真っ暗闇のエッチシーンは、プレビューよりもかなり大人モードでエッチ度がアップしていました。同時に志賀君が本当に熟年の体であることで、悲しさも大幅アップ。大きな笑い声が響く客席でボロボロ涙を流してました。

 志賀君のお母さん役の代わりにお父さん(猪股俊明)が登場したことで、男同士の対話のトライアングル(品川先生と志賀君⇒志賀君とお父さん⇒お父さんと品川先生)が生まれていたように思います。基本的に無邪気でおバカ丸出しだし、子供みたいにケンカしちゃうし、好きな女のために浮かれちゃうし・・・っていうのは男性ならではの性質だと思います。品川先生がただの悪役ではなく、愛すべきバカ男として私の心に残ってくれたので、最後に志賀くんと品川先生が一緒に刺し違えて死んでしまうことも、物語の結末としてスムーズに受け入れられました。
 あの最後の長い暗転で(ラブ・シーンほどじゃないけど・笑)、私も一緒に死後の世界に行って、そしてマチコと、志賀くんと、品川先生と一緒になった・・・ように思い、涙がこぼれました。うん、泣いてばっかりダスよ。

 役者さんは皆さん素晴らしかったです。私は初日に拝見しましたので、またグンと良くなっていくことと思います。

 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 出演:岩井秀人、岩井さんのお母様 司会:徳永京子

 またもや徳永京子さんの司会!なんておしゃれで可愛らしい人なのかしら。語り口が穏やかで和みます
 岩井さんのお母様がトークに出演されるのは2度目。1度目は岩井さんが泣いてしまったので、今回は泣かない対策のために司会を立てたそうです。たしかにあのトークは私も泣いちゃったな~(遠い目)。

 お母様が岩井さんの坊主頭のエピソードを話してくださったり、あきれるほど赤裸々なトーク満載でした。
 岩井秀人「『これは嘘でございます』と最初に言っておく。じゃないと恥ずかしい。」

出演=志賀廣太郎(青年団)、猪股俊明、古館寛治(青年団)、金子岳憲、石橋亜希子(青年団)、島林愛(蜻蛉玉)、星野秀介(田上パル)、永井若葉
脚本・演出=岩井秀人 照明=松本大介(enjin-light) 音響=荒木まや 舞台監督=田中翼 舞台美術=土岐研一 三浦俊輔 宣伝美術=池田泰幸 西村美博 上野敬(サン・アド) 写真撮影=岩井泉 シェークスピアの絵 いちこじま画伯 制作=原田瞳(tsumazuki no ishi) 企画制作=ハイバイ/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 主催=(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
【発売日】2007/04/15 5/24~5/28は前売り2500円、当日3000円 5/30~6/3は前売り3000円、当日3500円
http://hi-bye.hp.infoseek.co.jp/

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガも発行しております。

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ
Posted by shinobu at 11:06 | TrackBack