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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年02月27日

シス・カンパニー『美しきものの伝説』02/17-3/10紀伊国屋ホール

 1968年初演で色々な演出家の手で何度も上演されている名作だそうです。私はシス・カンパニーの豪華キャストなのでチケットを取りました。
 やっぱりマキノノゾミさんの演出は私の好みじゃないですね。脚本(マキノさんの)は大好きなんだけどな。
 ネタバレします。

 大正時代の東京の約十数年間のお話。文化の花が咲き誇ったベル・エポックと呼ばれる時代であると同時に、大逆事件などに見られるように言論の自由がいちじるしく損なわれた時代でもあった。政治や演劇に命をかける日本人の若者たちの群像劇。登場人物は教科書に出てくるような実在の人物です。

 演劇界きっての超豪華キャスティングですから、当然一人ひとりのキャラクターがしっかりしていますし、皆さん演技もお上手なはずなのに、どうもバラバラな感じで物語が見えてきませんでした。まず、時間が経過していくのが感じられなかった。服装やメイクが変わるだけのようでした。

 ラストに向けて頭をかしげちゃうような演出が目立ちました。照明と効果音で主役カップルが死ぬ瞬間を表しちゃったり、モノクロになる黄色い照明で登場人物たちが過去の人だった(みな死んでいる)のを表したり、役者全員をストップモーションで舞わせたり、声を合わせてセリフを群読させたり。かっこよくないですよね。
 クライマックスの音楽に松任谷由美の「春よ来い」はないと思います。あの歌以外の音楽は全体的にすごく控えめでしたから目立ちましたよね。“はーるーよー♪”とか大音量でやられても・・・大正ロマンのおもかげが消えてしまいました。歌詞がぴったりだったから選んだのかしら?
 カーテンコール後のあのシャッターは何だったのでしょう。紀伊国屋ホールのプロセニアム・アーチ全てを覆う大きさの電動シャッターが緞帳(どんちょう)のように舞台を閉ざすエンディング。なんだか後ろ向きだし機械的だしで不快でした。また観客は、もう一度役者さんが出て来てくれるかもしれない・・・という期待もあったので拍手を強制されることになってしまいました。結局シャッターがすごくゆっくりと降りてくるのを見守るだけで2度目のカーテンコールはなかったんです。残酷だよなー。

 松井須磨子という大女優の役と主役の女性の2役をキムラ緑子さんが演じられていましたが、別々の方が良かったのではないでしょうか。もともと脚本にその役があるのかどうか私は知りませんが、その時代のキーパーソンである松井須磨子という女性にはぜひ出てきてもらいたかったです。

 美術(堀尾幸男)はカーテンが素敵でした。文字映像が写されている間は固い素材(板)かしらと思っていんです。色も青銅色だったりこげ茶だったり変化して美しかったです。美術全体としてはちょっとがらんどう過ぎたかなーと感じましたが、美術のせいじゃないかも。

 セリフを噛む(言い間違う)役者さんが多かったです。浅野和之さんは特に早口だし声も小さいし間違うしで、いいところなかったですね。大好きな俳優さんだけに残念さもひとしお。
 役者さんの中では綾田俊樹さんがダントツで良かったです。ちゃんとその人物として存在していながらお客様へのサービスも満載。綾田さんが立っているだけで微笑みがこぼれました。

 一昨年の新国立劇場での『かもめ』(演出:マキノノゾミ)は初日に見たので、作品の全体が完成していない印象でもまあ仕方ないかなと思えたのですが、今回は幕が開いてから結構経っていますのでこれが完成版なのでしょうね。となるとやっぱり私の好みではないってことですね。

作:宮本研/演出:マキノノゾミ
出演:段田安則 キムラ緑子 浅野和之 高橋克実 深浦加奈子 田山涼成 羽場裕一 佐戸井けん太 綾田俊樹 松澤一之 山下容莉枝 樋渡真司 西川忠志 廻 飛雄 少路勇介 米田弥央 小林彩子
美術:堀尾幸男/照明:小川幾雄/衣装:三大寺志保美/音響:堂岡俊弘/舞台監督:津田光正/プロデューサー:北村明子/企画・製作:シス・カンパニー/提携:紀伊國屋書店
シス・カンパニー : http://www.siscompany.com/

Posted by shinobu at 10:10

2004年02月21日

ク・ナウカ プロデュース『かもめ・第二章』01/14-18スフィアメックス

 技術が確かな俳優さんが集まったク・ナウカのプロデュース公演。贅沢ですね~。
 イタリア人演出家のジャンカルロ・ナンニさんを迎えて、ひと味もふた味も違うチェーホフの『かもめ』を体験させてくださいました。『かもめ』を観たことがある人なら誰もが心底楽しめたんじゃないかと思います。

 まずスフィアメックスの真ん中全てが舞台でした。壁に沿って役者さん個人の“ブース”があり、それぞれのテーマでそのブースが装飾されています。トリゴーリンが犬というのがしっくり来ました。掛け軸に標語のようにそれぞれの性格を現す掛け軸がありました。コースチャ「ミアキャット。いつもびくびく現金払い」というように。

 役者さんそれぞれに『かもめ』の登場人物の役を割り当てられています(ニーナ以外)。時系列はそのままでしたが普通に『かもめ』を上演する形式ではありませんでした。時には役に関係なく円に並んで順番に脚本のセリフを読み上げたりもします。ストーリーから全く離れた不条理劇のような側面や笑いを誘う粋な実験的演出を見せつつ、やはり伝わってくるのは『かもめ』に出てくる人間たちの心でした。

 役になりきるというのは一体どういうことなんだろうと改めて考えさせられました。人間は決して自分以外のものにはなれないですよね。例えばイリーナ役を演じるとすると、自分の中からイリーナ的な部分を探し出して再構成して、新しいイリーナを作り出すのかな~などとぼんやり感じました。舞台上にいた役者さん達はあくまでも自然なご自分のままでありながら、同時に生き生きとした『かもめ』の人物でもありました。ジャンカルロ・ナンニさんの魔法なのかしら?役者さんたちも登場人物もすごく魅力的でした。

 大女優イリーナ(ひらたよーこ)と売れっ子の小説家トリゴーリン(三村聡)のラブシーンがものすごく官能的でした。私はあのシーンのトリゴーリンの「僕には自分の意志というものがない」というセリフが大好きなんです。しかも三村さんが私の理想のパターンで言ってくださいましたので大満足。

 ニーナを内面のニーナと外面のニーナの2人に演じさせたのはものすごく面白かったし、若者らしさが明らかになった気がしました。それにしても、たきいみきさん(ク・ナウカ)のお美しいこと!そこいらの人気アイドルなんて目じゃないですよ。
 
 イリーナの兄のソーリン(山田宏平)というと定年退職してだらりと生きているダメおじさんで、のれんに腕押しというイメージだったのですが、イケメン医者のドールン(牧山祐)に向かって本気で怒りをぶつけて怒鳴る演技があり、驚きました。同時にソーリンの悲しさが胸に響きました。

 コースチャ(大井靖彦)が自殺した時、舞台全体の照明が消えて彼のブースのカラフルな電球3~4個だけが点ったのは、寂しいけどちょっとおどけた感じのイタリア映画のようでした。

作/アントン・チェーホフ 演出・美術/ジャンカルロ・ナンニ(teatro Vascello)
出演/ひらたよーこ(青年団)、松田弘子(青年団)、大井靖彦(花組芝居)、三村聡(山の手事情社)、山田宏平(山の手事情社)、牧山祐(東京オレンジ)、桜内結う(ク・ナウカ)、たきいみき(ク・ナウカ)、藤本康宏(ク・ナウカ)
スタッフ/舞台監督:海老澤栄 美術:青木祐輔 照明コーディネート:伊藤孝 音響:鳥巣祥洋(AZTEC) 衣装:小山ゆみ 演出助手:大野裕明(花組芝居) 舞台監督助手:松堂雅 照明操作:木藤歩(バランス) 照明協力:ART CORE 通訳:キアラ・ポッタ 台本協力:平田オリザ 企画:宮城聰 制作:大和田尚子、田中美季、久我晴子 票券協力:ぷれいす

ク・ナウカ : http://www.kunauka.or.jp/

Posted by shinobu at 21:58

ホリプロ『ユーリン・タウン』02/5-29日生劇場

 2002年トニー賞三部門受賞作。
 宮本亜門さんの演出は、私にとって得意(『ボーイズ・タイム』『ガールズ・タイム』『ファンタスティックス』)・不得意(『キャンディード』)が激しいのですが、キャストに興味があったのでチケットを取りました。なのに安売りとかするし・・・ちょっと勇み足だったかな。
 ネタバレします。

 最初の45分がものすごく盛り上がらなくって、このままだと確実に途中休憩の時間に劇場を出ることになると恐れたのですが(実際出て行った人は大勢いました)、別所哲也さんと鈴木蘭々さんのデュエットが美しかったし、舞台美術(松井るみ)が予想外にうまく機能していたので、残ることにしました。

 深刻な水不足でトイレに自由にいけなくなった近未来のアメリカのどこか。勝手におしっこ(ユーリン)をしたりトイレ使用料金を払わなかったら警察につかまってユーリン・タウンに連行されてしまう・・・。

 まさかミュージカルで環境問題についてお説教されるとは思いませんでした。アメリカ人って許容範囲が広いというか、政治が好きですよね。“異色のミュージカル”とチラシにありますが、観終わって心底納得です。

 南原清隆さんが「これはミュージカルだから何でもアリです。突然歌ったりもします」などと客席に向かって何度となく説明するのですが、劇場に生まれてから一度も足を踏み入れたことのない人向けの演出だったのでしょうか。それにしてもクドかった。脚本自体が既にそうだったのかもしれないけれど、ミュージカルだとわかって観に来ている人にとってはミュージカルへの侮辱とも取れました。

 また、この作品の独特なところは、どんどんと今後の展開をネタバレしていくことです。「これから踊りと歌のシーンになるんだけど」「実はユーリンタウンに連行された奴は殺されてるなんて、ここで言うと面白くないでしょ?」とか。そういう仕掛けって効果としてすごく面白いと思うんですが、成立させるのは難しいですよね。少なくとも私が観た回では非効果的でした。

 ヒーロー(別所哲也)がビルから突き落とされて死ぬシーンは照明も美術も面白い演出でした。ああいうアイデアとかって心に残りますね。別所哲也さんの演技力(魅力)によるところも大きいと思いますが。本当に別所さんは素敵でした。彼が見られただけでも良しとします。
 マルシアさんの歌声はやっぱりパワフルで聴きごたえがあります。迫力あるし堂々としてるし、舞台の彼女が好きです。

演出:宮本亜門 音楽・詞:マーク・ホルマン 
出演:南原清隆/別所哲也/マルシア/鈴木蘭々/入絵加奈子・杉崎政宏・安崎 求/高谷あゆみ・荒井洸子・大森博史/小宮健吾・加藤 満・川井康弘・水野栄治・原慎一郎・飯野 愛/高泉淳子/藤木 孝
脚本・詞:グレッグ・コティス 翻 訳:常田景子 訳 詞:橋本邦彦 音楽監督:甲斐正人 振付:カズミ・ボウイ 美術:松井るみ 照明:高見和義 衣装:前田文子 ヘアメイク:林裕子 音響:大坪正仁 声楽指導:矢部玲司 演出助手:北村直子 舞台監督:二瓶剛雄

ユーリン・タウン : http://www.horipro.co.jp/UTmusical/
ホリプロ・オンライン・チケット : http://www.horipro.co.jp/ticket/kouen.cgi

Posted by shinobu at 15:29

2004年02月19日

tpt『Angels in America<第2部「ペレストロイカ」>』01/21-2/29ベニサン・ピット

 ピューリッツァ賞、トニー賞 (1・2部 2年連続) を受賞、ロンドン ナショナル・シアターによる“20世紀の傑作20”にも選出されているトニー・クシュナーの戯曲の第1部、第2部連続公演です。
 第1部のレビューに全体についてのレビューをまとめています。

<第2部「ペレストロイカ」>

 両性具有の天使(チョウソンハ)がプライヤー(斉藤直樹)に人類が生まれた真実について具体的に話すのですが、すごく壮大で空想的なのですが、私はそれを信じるタイプなので引き込まれました。

 チョウソンハさん(天使役)の、つかこうへい劇団のテイストがこんなにtptで生かされるなんて、思いもよりませんでした。もちろん大声じゃないセリフも非常に心がこもっていて冷静で良かった。これからのご活躍を追いかけたいです。

 ルイス(池下重大)とジョー(朴昭熙)とが初めてあんな風に口説かれたら誰でもベッドインしちゃうよな~って思いました(笑)。「匂い、味・・・」のくだりです。男同士のラブ・シーンなのに全く引きませんでした。うっとりしたぐらいです。

 クライマックスの天使全員集合シーン。本を持ってたたずむプライヤーが着ていたマントはユダヤの布でしたね。モーゼのイメージ。それを脱いで病人用の白い服に戻るのが象徴的。「もっと、命を!」

 これだけチョウソンハさん、朴昭熙さんとミーハー言ってても、全編を通して静かに私の心に住み着いたのはプライヤー役(主役)の斉藤直樹さんでした。清らかな心を持った彼を通して、全人類の根源的な希望、そしてそれが報われない悲しみを体全体で感じました。


■今公演のキャッチコピー(tptのHPより)
 豊かな想像力を駆使し、現実と幻想、時を超え歴史を辿り'80年代レーガン政権下のアメリカが抱える-政治・経済・宗教・人権・法律・医療etc-深く、暗い闇をゲイ、エイズの幻想曲の過激なユーモアで鋭く照射する。

■どこかに載ってた宣伝文(引用元不明。おそらくぴあ等のプレイガイド)
 ピュリッツァー賞(93年)、トニー賞(92年、93年)他、多数の演劇賞を受賞し、一大センセーションを巻き起こした「エンジェルス・イン・アメリカ」が、9年ぶりに日本で上演される。演出は、9年前の銀座セゾン劇場公演同様、ロバート・アラン・アッカーマンが手懸ける。”国民的テーマに関するゲイ・ファンタジア”というサブタイトルが付けられた本作品は、エイズ・政治・宗教・民族・差別といった現代のアメリカ人が抱える様々な問題を、過激なユーモアと、現実と幻想が交錯するスピーディな展開で描き、ロンドン・ナショナルシアターの“20世紀の最も偉大な戯曲20本”にも選ばれた傑作だ。ベニサン・ピットという濃密な空間で、ぜひ1部、2部共に観て欲しい!

■TVドラマ「エンジェルス イン アメリカ」
OVER THE RAINBOW
WOWOWで放送決定!

PPTP(Post Performance Talk Project)内
pptpVol.7『エンジェルス・イン・アメリカ』をめぐって
パネラー:ロバート・アラン・アッカーマン(演出家)、たほりつこ(アーティスト)、長谷部浩(演劇評論家)、薛珠麗(翻訳家)

【レビュー】
Tabla Rasa
Theatre Cafe Diary
No hay banda 第1部第2部

レパートリー1・2一挙上演
<第1部「ミレニアム」>1/20(火)~2/29(日)
<第2部「ペレストロイカ」>1/21(水)~2/29(日) 
出演 THE COMPANY :中川安奈/山本亨/朴昭熙/斉藤直樹/矢内文章/池下重大/松浦佐知子/植野葉子/深貝大輔 + Angels:チョウソンハ/藤沢大悟/小谷真一
作:トニー・クシュナー new version by tpt workshop 訳:薛 珠麗 演出:ロバート・アラン・アッカーマン
デザイン(美術&衣装など):ボビー・ヴォヤヴォッツキー 照明:沢田祐二 音響:高橋 巖 ヘア&メイクアップ:鎌田直樹 舞台監督:久保勲生
tpt : http://www.tpt.co.jp/

Posted by shinobu at 23:34 | TrackBack

2004年02月18日

オペラシアターこんにゃく座『オペラ 花のラ・マンチャ騎士道 あるいは ドン・キホーテ最後の冒険』02/12-22シアタートラム

 オペラシアターこんにゃく座は初見です。映画『ラ・マンチャの男』が大好きなのと、美術が松井るみさん、振付が井手茂太さん(イデビアン・クルー)なのでチケットを取ってみました。

 オープニングは最高でした。客席に近く、とても開かれた印象の空間。やさしく暖かく迎えてくれた出演者から思いっきり楽しそうな歌声。「ラ・マンチャ」という言葉を聴くだけでうきうきしちゃうし、感動しちゃうんですよね。ほんとに大好きなお話なので。

 ただ、最初の30分以降は徐々に退屈になっていってしまいました。オペラなのでセリフも全て歌なんですが、同じパターンの音楽(メロディー)が多い気がしました。説明セリフが多すぎたからじゃないでしょうか。「こうなって、こうなって、こうなった」みたいに一言で早口に歌われると、悲しい。

 ドゥルシネア(アルドンザ)が出てくるのがほとんど終わりの頃だったのが私としては残念。映画だとかっこいいソフィア・ローレンがすぐ出て来てくれて、ドン・キホーテの純粋な恋心が作品をずーっと包んでいるんです。このオペラでは恋よりも騎士道がメインだったようですね。原作に忠実に書かれた脚本のようですし。

 松井るみさんの美術について。船の帆のように広がった布。海のような空ような絵が描かれた舞台面。最初はそのシンプルさと大らかさに感動したのですが、だんだんと飽きが来てしまって・・・これもストーリーに関係ある気がします。

 井手茂太さん(イデビアン・クルー)の振付が出てきた時はすぐにわかりましたし、客席でもすごく受けていましたが、ほんの少しだったんですよね~。もっと大々的にやって欲しかった。

 大石哲史さん。サンチョ・パンサ役。色々笑わせてくださいました。演技がとても良かったのはこの人ぐらいかな。まあオペラですから歌がお上手なら問題ないですよね。


作/ミゲル・デ・セルバンテス (訳/牛島信明) 台本/山元清多 作曲・芸術監督/林光
演出/加藤直 美術/松井るみ 衣裳/半田悦子 照明/山口暁 振付/井手茂太 舞台監督/平井徹 演出助手/高木陽子 宣伝美術/小田善久 音楽監督/萩京子
出演:大石哲史 相原智枝 岡原真弓 井村タカオ 鈴木あかね 酒井聡澄 高野うるお 富山直人 松川和弘 石窪朋 鈴木裕加 山本伸子 ピアノ/寺嶋陸也

オペラシアターこんにゃく座 : http://homepage2.nifty.com/konnyakuza/

Posted by shinobu at 23:33

Ort-d.d + こふく劇場『so bad year』02/17, 18東京芸術劇場 小ホール1

 東京国際芸術祭リージョナルシアターシリーズのフリンジ企画です。このフリンジ企画って今年が初めての試みだそうです。

 Ort-d.d(オルト・ディーディー)はUBU7という企画内の『一人芝居★ユビュ王』しか見たこと無かったので、本公演としては初見です。こふく劇場は宮崎県で活動する劇団でして、これまた初見。演出の倉迫康史さんがアレンジされた横浜STスポットでの『ラ・ロンド』がすごく面白かったので期待して伺いました。

 妻を捨てて妻の妹とかけおちした男。2人の平穏な生活が1年続いたが、突然、男の妹がやってきた。交錯する3人の会話。

 うーむ・・・難しかったですぅ。一人の男を共有した姉妹の行動の真相も私にはわからず終いでした。呼吸やセリフの間も声色も難解だったな~。

 「ささやきの演劇」と呼ばれるOrt-d.dの舞台空間では、演出やシーンの細かいところで少しずつひっかかりました。オープニングの「闇」という一言で本当に完全暗転したのがかっこ良かった。青い帽子がきれいだった。

 照明が、というか、東京芸術劇場小ホール1が紫やピンクの照明でうっすら照らされて、その光が反射して舞台が明るくなっているような、繊細でしめやかな印象の舞台でした。舞台の床の下に照明が仕込まれていたのもメタリックかつ幻想的でかっこ良かったです。

 舞台上の真ん中にベンチ、上手側におそらく障子でかこまれた部屋、下手側には2階建てベッド。この2階建てベッドは姉妹や兄妹の関係を表しているのかなー。みんな青銅色なのは硬質で時間を感じさせます。

 三村聡さんが相変わらず魅力的な男性でした。三村さんのことを考えるとき、どうしても役者さんとして見られないんですよね、これは不思議なんですが、なぜか男性として注目してしまいます。演技がお上手なのが私にとって当たり前になってしまっているからかな。

作:永山智行(こふく劇場) 演出:倉迫康史 
出演:三村聡(山の手事情社) あべゆう(こふく劇場) 上元千春(こふく劇場)
照明:工藤真一(ユニークブレーン) 照明助手:川田京子(ユニークブレーン) 美術原案:伊藤雅子 美術装飾:るう(ROCCA WORKS) 衣装・ヘアメイク:田丸暦 衣装協力:鶴見泰裕、木島幸子、岡崎イクコ、棚川寛子 舞台監督:弘光哲也 舞台助手:渡部景介 制作:中村千寿
オルト・ディー・ディー : http://ort.m78.com/
東京国際芸術祭 : http://www.anj.or.jp/tif2004/index.php

Posted by shinobu at 23:14

2004年02月17日

tpt『Angels in America<第1部「ミレニアム」>』01/20-2/29ベニサン・ピット

 しのぶの2004年の観劇ベストテンに確実に入るだろう作品となりました。
 第1部と第2部が完全に続き物になっている大作です。第2部のレビューは分けて掲載しましたので、続けてお読みいただけたらと思います。

 トニー・クシュナー作のこの戯曲はピューリッツァ賞、トニー賞 (1・2部 2年連続) を受賞、ロンドン ナショナル・シアターによる“20世紀の傑作20”にも選出されています。

 劇評や解説などを読んで「エイズで死んでしまうゲイの若者を通して80年代の問題をあぶり出す」というようなイメージを持っていましたので、これまで観るのを避けていたのですが、tptで上演されるならぜひ観たいと思い、両バージョン拝見いたしました。

 笑えるし明るいし、セリフも美しい。めちゃくちゃ楽しくて面白い!
 もちろん鋭い問題提起もありますし、命に関わる深刻さが土台になってはいるのですが、脚本も演出も基本的にファンタジーなんです。

 tptはもう何度も拝見しているのですが、今回ほど生々しいのは初めてな気がします。舞台空間と役者と客席とが、ライブでつながっている気がするんです。
 精神安定剤中毒の妻(中川安奈)が頻繁に幻想の世界にトんで行きますし、エイズが発症したゲイのプライアー(斉藤直樹)も、ベッドで夢を見て、そのまま時を越えます。それがあまりに容易に、通常的に起こるので、俳優がどんどんと舞台や作品世界からこちらに飛び出して来るように感じられます。
 また、美術は小屋自体を露出する方向で、余計なものをそぎ落としてシンプルに作られており、装置にイントレをそのまま使ったりする手作り感もありますから、とても身近に感じます。場面転換の際に、イスやテーブルを出し入れする演出部スタッフが堂々と舞台に走って出てきてテキパキ動くのも、ライブ感覚を増徴させます。

 本来なら深いどん底まで落ち込んだような物語なのに、観客も一緒になって楽しめるし、参加している気持ちにすらなります。ルイス(池下重大)と黒人ドラッグクイーン・ベリーズ(矢内文章)の政治論争なんて友達と話している感覚でした。

 役者さんは皆さん本当にお上手で、一人ひとりが生き生きと個性を発揮されています。アッカーマンさんにTHE COMPANYと呼ばれるこのチームの価値がよくわかります。tpt『BENT』で拝見した役者さんが出ているから「あ、あの人、今回はこんな役なんだ~」という味わいもありつつ、その成長振りに感心させられます。

 それにしても、第1部と第2部を一挙上演してくださったことに、心から感謝しています。ものすごいことをやってくださいました。


<第1部「ミレニアム」>
 
 男同士の恋愛ものって私は基本的に苦手なんですが、ジョー(朴昭熙)とルイス(池下重大)の頬に触れるラブシーンには本当にときめきました。tpt『BENT』の主役の二人ですよね。それもまた嬉しい。

 最後に天使(チョウソンハ)が2階から降臨すくるシーン。あの衣装は私にとって新しい両性具有のイメージでした。チョウソンハさんはつかこうへい劇団でよく拝見していましたが、全く違う面を見せてくださいました。猥雑さも神々しさも飲み込んだ力強い音。この世のものとは思えない声。

 自分がゲイだと気づく弁護士ジョー役の朴昭熙(パク・ソヒ)さんは、やっぱり間違いなく演劇界の新しいスターです。アジアの男の魅力が全て搭載されていると言うか・・・観てるだけで泣けてきます!それにしても肌の露出が多かったですよね、アッカーマンさんのサービス? マジ必見です(笑)。母親と電話するシーンでのセリフ「僕、ホモセクシャルなんです。、かっこわりーっ」が絶品。

 朴昭熙さんを見たいなら第1部、チョウソンハさんは第2部ですよっ♪

 カーテンコールはBilly Joel"Uptown Girl"をBGMに役者さんたち闊歩して出て来ます。ずーっと笑顔で拍手しました。楽しくってしょうがなかった。

レパートリー1・2一挙上演
<第1部「ミレニアム」>1/20(火)~2/29(日)
<第2部「ペレストロイカ」>1/21(水)~2/29(日) 
出演 THE COMPANY :中川安奈/山本亨/朴昭熙/斉藤直樹/矢内文章/池下重大/松浦佐知子/植野葉子/深貝大輔 + Angels:チョウソンハ/藤沢大悟/小谷真一
作:トニー・クシュナー new version by tpt workshop 訳:薛 珠麗 演出:ロバート・アラン・アッカーマン
デザイン(美術&衣装など):ボビー・ヴォヤヴォッツキー 照明:沢田祐二 音響:高橋 巖 ヘア&メイクアップ:鎌田直樹 舞台監督:久保勲生
tpt : http://www.tpt.co.jp/

Posted by shinobu at 23:31 | TrackBack

2004年02月15日

裸伝Q『夜のドウブツたち』02/12-5新宿パンプルムス

 裸伝Q(はだかでんきゅう)は鍋島松涛さんのプロデュース方式の演劇ユニットです。今回は私が制作をしているRel-ay(リレイ)の役者、桜井昭博が出演させていただきました。

 結婚式の帰りに友人が酔っ払って階段から落ちてしまった。待合室で手術が終わるのをずっと待っている。久々に再開した大学時代の同級生たちの会話。

 学生時代、劇団で芝居をやっていたけれど卒業後は皆それぞれの道へと進み、サラリーマンになっていたりアルバイターだったり。私はお芝居を題材にした演劇ってちょっと苦手なんですよね。

 最後の爆発に至るまでずーっと静かな時間が流れていましたが、ちょっともったいない気がします。中盤に少しぐらい盛り上がるところがあればなーと思いました。

 オープニングの裸電球と緑の照明がすごく面白い演出でした。エンディングも白いゴミ袋から明るい照明が煌々と透けて照ってきれいでした。

 中盤で役者さんが下手にはける時の、突然脈絡無く小走りするような動作は面白いですね。たしか前に見た『該当者ナシ』でもそういうのがあったような。

作・演出:鍋島松涛
出演:日高啓介 桜井昭博(Rel-ay) 森竜太郎(たくま社宅) 智恵 三谷智子
舞台監督:因幡能敬 照明:松本永(光円錐) 宣伝美術:大西由美子 制作:大神舞子

劇団HPはないようです。

Posted by shinobu at 21:30

ブラジル『バレンタインデー・キス』02/11-16王子小劇場

 ブラジリィー・アン・山田さんが作・演出をする演劇ユニットのブラジル。所属役者さんは辰巳智秋さんお一人で、毎回他劇団から役者さんを集めるプロデュース形式です。

 今回も確実に“苦笑系”演劇でした。いっぱい笑ってとっても面白かった上に、なんと、涙が出てしまいました。

 女子高生がバレンタインチョコを渡そうと意中の彼を倉庫に呼び出したが、なんとその倉庫は銀行強盗たちの集合場所でもあった。何もかもが上手くいかず、予定外の鉢合わせとドタバタの連続。
 
 犯罪ものを本筋に、青春ラブ・コメディー路線とアンダーグラウンドな設定を盛り込んだ、先のわからないエキサイティングな展開。芸達者な役者さんの個々のファインプレイが生々しさをさらに盛り上げます。破廉恥なセリフや演技(そしてあの小道具)も、こっ恥ずかしさを感じつつ苦笑させていただきました。

 とにかく役者さんが体を張っています。ダンボール箱が所狭しと転がる舞台で、トラブルが常に起こっているような状態。段取り通りの演技をすることがまず困難です。プロデュース公演にありがちなキャラクター勝負に陥ることを防ぎ、一人一人の個性は生かしながらも一体感のある作品に仕上がっているのは、脚本と演出のしたたかな狙いだと思います。

 なぜ涙が出ちゃったのか自分でも理解不可能でした。今考えると映画『ラストサムライ』と同じものを感じたような気がします。暴力、暴力、暴力、その空しさ。どうでもいいことに必死になる人間の滑稽さと悲しさ。舞台上の役者さんたちの生の熱さがそれを本物として伝えてくれたのではないでしょうか。

 王子小劇場の個性をうまく利用した美術ですね。お値段も安く抑えてらっしゃるのでしょう。だけど臨場感ばっちり。
 ラストに流れる音楽「守ってあげたい」が効果的。
 前述のとおりトラブル続出で段取り通りにいかないことが多かったからか、途中で不自然に止まっているようなこともありましたが、それは気になりませんでした。

 辰巳智秋さん。チョコを渡したい女子高生役。おデブ体型のキュートなセーラー服姿で、反射神経と柔軟な演技と爆発力がすごいです。

作・演出:ブラジリィー・アン・山田
出演:辰巳智秋 佐藤亜紀(bound) 岩渕敏司(くろいぬパレード) 近藤美月(bird's-eye view) 伊藤伸太朗(チャリT企画) 内山奈々(チャリT企画) 武藤心平(クロム舎) 日栄洋祐 安元遊香(Saliva) ハセガワアユム(caprico)佐藤春平(少年社中) 白坂英晃(はらぺこペンギン) 近藤英輝(双数姉妹) 中谷真由美(シアトル劇団子) 小田さやか 久保貫太郎(演劇弁当猫ニャー) 石川ユリコ(拙者ムニエル)
音響:島貫聡 照明:シバタユキエ 舞台監督:鈴木たろう 衣装製作:太田家世(自由創作師) 宣伝美術:川本裕之 宣伝写真:岩崎詩子 チラシモデル:佐藤亜紀 演出助手:恒川稔英 制作:吉野礼・ブラジル事務局

ブラジル : http://www.medianetjapan.com/10/drama_art/brazil/

Posted by shinobu at 19:43

2004年02月14日

ヴィレッジ・劇団☆新感線『レッツゴー!忍法帖』01/22-2/22池袋サンシャイン劇場

 新感線は中島かずきさん脚本の歴史・神話ものスペクタクル・ロマンも好きですが、いのうえひでのりさん脚本のコント満載ドタバタアクション、通称“おポンチ”ものが大好きです。

 面白かった~・・・休憩15分を挟んで3時間。圧倒されっぱなしでした。疲れてフラフラ。拍手もままならぬカーテンコール。ごめんなさい、もう、お腹いっぱい・・・!

 あらすじとか書く気が沸きません。はっきり言ってどうでもいいです。いや、展開も面白いし仕掛けもすごいしネタははずさないし、とにかく何の文句もないんです。ただただ、ありがとう!!

 オープニング映像のアニメが面白い。舞台上の役者と映像が重なるのも面白い。何もかも面白い。
 マイケル・ジャクソンのヒット曲メドレーでのサルカニ合戦がすごい。
 私の心に残ったギャグは「黒いアポストロフィー」。目立たないセリフでしたが1分ぐらい肩を震わせて笑いました。あの皿回しキャラは他の悪者たちの中でも新鮮だった気がします。

 阿部サダヲさん。キュート爆発。筋肉が輝いている。可愛い化け物ですね。
 池田成志さん。バツ!の歌で笑い死にました。お約束を全て果たしてくださるヘナちょこ貴公子。
 高田聖子さん。マングースあやや踊り。やめて。もうやめて。お姉さまのそんな姿は・・・もっと観たい。
 古田新太さん。いつも通り文句なし。殺陣のあまりのお上手さにため息。ほぅ~・・・。

 新感線を池袋サンシャイン劇場で観られるのは本当に贅沢ですね。客席はもちろんのこと舞台が狭い。

 一緒に観に行った友人が「大人になったら新感線になりたい」と言いました。そう、私もこんなおバカなことを本気でやる超ド級にかっこいい大人たちのようになりたいです。もう大人だけど。

作・演出 いのうえひでのり
出演:古田新太 阿部サダヲ 馬渕英里何 入江雅人 高田聖子 橋本じゅん 粟根まこと こぐれ修 逆木圭一郎 右近健一 河野まさと インディ高橋 山本カナコ 礒野慎吾 吉田メタル 杉本恵美 タイソン大屋 中谷さとみ 保坂エマ 川原正嗣 前田悟 池田成志
美術:綿谷文男 照明:松林克明(FLARE) 音響:井上哲司(FORCE) 音効:末谷あずさ、大木祐介 振付:川崎悦子(BEATNIK STUDIO) 殺陣指導:田尻茂一、前田悟(アクションクラブ) アクション監督:川原正嗣(アクションクラブ) 音楽:岡崎司 歌唱監督:右近健一 衣装:竹田団吾 ヘアメイク:高橋功亘 小道具:高橋岳蔵 特殊効果:南義明(ギミック) 映像:樋口真嗣(モーターライズ) 大道具:浦野正之(アーティスティック・ポイント) 演出助手: 小池宏史 舞台監督:芳谷研 宣伝美術:大島光二(グループ現代) 写真:中川彰 イラストロゴ:福田利之 イラスト:村松正孝 制作協力(大阪公演):キョードー大阪 宣伝:る・ひまわり 票券:脇本好美(ヴィレッヂ) 制作進行:小池映子(ヴィレッヂ) 制作:細川展裕、柴原智子(ヴィレッヂ) 企画制作:劇団☆新感線、ヴィレッヂ

劇団☆新感線 : http://www.vi-shinkansen.co.jp/

Posted by shinobu at 17:22

2004年02月12日

Oi-SCALE『ジレンマセラピー』01/15-20明石スタジオ

 Oi-SCALE(オイスケール)は林灰二さんが作・演出をされる劇団です(少し出演も)。私は林さんのポエティックなセリフが大好きで、見逃したくない劇団になっています。
 今回は安部公房・作「箱男」をモチーフにした作品だそうです。

 不可抗力で人を殺してしまい少年院に入っていた少年「僕」が主人公。院を出てからはほぼ家に引きこもっている。姉とその夫との3人暮らしと思いきや、実はダンボール箱に入ったままの兄も同居している。少年院で一緒だった友達が2人いて、1人はコンビニのバイトの面接に行く。もう1人は少年院にいた頃のことを小説にして売れっ子作家になっていた。

 勇気を出してアルバイトの面接に行ったけれど、うまく人と向かい合えない。小説を書いてみるけれど、続きが書けない。救いようもないほど不器用な自分に、暖かく声をかけてくれる人がいる。自分とは違う生き方だけれど、自分と同じように悩んでいる人がいる。か弱いコミュニケーションをつむぎながら、それぞれの世界は悲しい結末を迎えていき・・・。

 少年が住むマンションのリビング(10階)、コンビニの事務所、作家の書斎(5階)、そして公園の計4箇所で登場人物各々の世界が描かれますが、最後には全てが主人公の「僕」のことだったとわかります。全て「僕」の世界の出来事であり「僕」自身が起こした事件なのです。でも、それさえも空想だったのかもしれない・・・。そんな凝った構成が成功しているのは、一つ一つの世界がしっかり作り上げられていたことと、オイスケール作品にいつも漂うヒヤっとした夢心地の空気のせいではないかと思います。

 少年院から出てきた主人公が箱に入って引きこもっているという設定ですから、そもそもが閉塞感ただよう暗いお話です。登場人物も不良が多いですし。それが、若者らしいちょっとブラックで可愛いいギャグやスライド文字映像の正直で暖かいメッセージ等により、ふんわりと心に沁み込むファンタジーに仕上げられているところが、オイスケール作品の特徴のような気がします。

 舞台美術は大きな壁で舞台の三方を囲み、のっぺらぼうな“箱”の印象でした。机をはじめとした家具はダンボールの材質で作られて、壁の茶色(かな?)が良い色でした。シンプルで象徴的な美術を見たのはオイスケールでは初めてでしたが、こういうのもかっこいいですね。仕掛けも凝っていて特にドアが移動するのに感心しました。

 いつもながら音楽がとても良かったです。パンクも多いですがメロディーのある切ない音も効果的でした。物語を邪魔しないし、かといって決して地味でもなく。
 細かい所ですが、ビルの5階と10階の部屋の名称が01-5号室、S-10号室なのが面白いですよね。Oi-5(SCALE)をもじっています。
 
 オイスケールお馴染みのスライド文字映像で「僕」のささやきが壁に映し出されます。今回はプロジェクターを2台使って文字が重なったりする演出があったのですが、プロジェクターを手で動かしているため絵が揺れていました。そういう手作業を感じられるのが可愛かったです。でも手作り感覚については好みがわかれるところかもしれませんね。もっとスマートにシステマチックになったオイスケールを観てみたい気もします。

 今回、私が心に持って帰った言葉はコレ↓
  ・僕は自分が偽者なことにいつも気付いていたんだ
  ・だけど、本当の自分にも期待ができなかったから
  ・嘘の咳で君の気を惹いて病気のふりを続けたんだ

 脚本、演出、美術、音響、役者さんなど、全体の劇団のカラーがしっかりと固まっていると思います。林さんが全てディレクションされているからなのかもしれませんね。ここに来ればこういうのが観られる、という保証があるのは大切なことだし、すごいことだと思います。

 町田水城さん(はえぎわ)。コンビニのアルバイター役。間もセリフも味があって狙いも定かですごいです。
 多田明弘さん(FICTION)。姉の夫役。淡々と静かにイヤなセリフの洪水。見ていて安心だし面白かったです。

CAST 星耕介 清成慎太郎 清水慎太郎 トモヒカン 中村太陽 林灰二 多田明弘(FICTION) 川崎賢一 町田水城(はえぎわ) ビッグ・ザ・加糖 倉庫主任(鯨養殖組合) 渡辺詩子 小堀友里絵 高橋唯子(projectサマカトポロジー)
STAFF 脚本/演出 林灰二 舞台監督 掛樋亮太 美術 仁平祐也 音楽/音響効果 ナガセナイフ 演出助手 中村紘彰 選曲/衣装/デザイン/写真 林灰二 Mac 清水慎太郎 /照明 高野由美絵((株)綜合舞台サービス) 制作 僕AREA←Spectators[B.A.S.]

Oi-SCALE(オイスケール) : http://www.oi-scale.com/
↑林灰二さんを始め他のメンバーのポエムやエッセイが公開されていて、お芝居で使われたスライドの文章も見られます。充実した劇団HPです。

Posted by shinobu at 16:29

2004年02月11日

らくだ工務店『ScHOOL』02/05-08新宿シアターモリエール

 らくだ工務店は、石曽根有也さんが作・演出をする劇団です。
 ガーディアンガーデン演劇フェスティバル出場も2週間後に控えたこの時期に本公演なんて、それだけで応援したくなります。

 ガーディアンガーデン演劇フェスティバル(えんげきのページ内)

 とある田舎の中学校。学校で起こる非行問題について淡々と語る先生たち。ふたつの教室で同時並行に起こる出来事。

 特に目立った展開や事件があるわけではない、いわゆる「静かな演劇」と言われるジャンルに入る作品だと思います。でも青年団弘前劇場のように作家の強い主張が伝わって来るのではなく、あくまでも“らくだ工務店”が作り上げた空間とその雰囲気を、観客も劇団員も一緒にリラックスして楽しむという感じです。

 登場人物一人一人のキャラクターが独特ではっきりしている静かな演劇、というと、役者さんのキャラクター勝負に陥る傾向があると思うのですが、らくだ工務店は違うんですよね。空気が優しいんです。舞台の上に乗っている役者さんたちのコミュニケーションが柔らかくて、暖かくて、どうにも顔がにやけてしまいます。「あ・うんの呼吸」というのはまさにこのことだと思います。

 つまり、ストーリー展開やその整合性などは観客にとってはあまり重要なポイントにならず、あくまでも“らくだ工務店”を味わうことで心が満たされると私は思います。例えば、ラストシーンで一人の先生(佐藤洋行)がナイフで誰かを刺したらしく、手が血にまみれたまま教室に入って来るのですが、誰を(何を)刺したのかがわかりませんでした。私は彼が自分で自分を刺したんじゃないかと予想したのですが、関係者に聴いたところハズレでした。でも私は別に何でも良かったんですよね。あぁ、刺しちゃったんだなーっていうだけで。うっすらと透明な閉塞感と、それに対する一つの絶望的な突破方法だったんだなって感じただけで充分でした。

 最初にらくだ工務店を拝見したのはアイピット目白での『smile』という作品だったのですが、それと比べると「これが同じ劇団の作品なの!?」というぐらい作風が変わっています。ずっと同じなのは舞台装置が福田暢秀さんのリアルで味のあるデザインで、とってもおしゃれだということ。

 シャイな男の子と女の子が「私たち、こういう雰囲気が気持ちいいと思うんです。皆さんも一緒に味わって楽しんでいただけたらな~って思います」という、非常に謙虚で優しい姿勢を感じられる、現在の東京の演劇シーンでは珍しい劇団だと思います。

 教育実習生(宮本拓也)が先輩の先生(瓜田尚美)に心寄せている演技がほほえましかったです。やっぱり恋がなきゃね。

作・演出:石曽根有也
出演:一法師豊 志村健一 今村裕次郎 兼島宏典 石曽根有也 瓜田尚美 山内三知 佐藤洋行(明日図鑑) 宮本拓也(bird's-eye view)
スタッフ 舞台美術:福田暢秀 美術製作:F.A.T. STUDIO 音響:菊池秀樹 照明:三瓶栄 宣伝美術:C-FLAT 宣伝写真:NUMBERSICS/エリ 制作補助:高橋邦浩 企画制作:音光堂

らくだ公務店 : http://rakuda.onkoudo.gr.jp/

Posted by shinobu at 14:33

2004年02月10日

親族代表『人間力学ショー THE BEST』02/10-15下北沢OFF OFFシアター

 親族代表は、嶋村太一さん(劇団桃唄309)、野間口徹さん、竹井亮介さんの3人組。ナンセンス・コントをしっかりした演技で確実に見せてくださいます。
 伊藤美穂さん(動物電気)がゲスト出演されるので伺いました。

 コント集ということで、本当に、本当に、コントだけでした。一個終わったらブルー転してすぐに次、次、という状態。私はコント集ってそんなに好んで観に行かないんですが、親族代表さんにはすごく楽しませていただきました。いっぱい笑えたかどうかよりも、細かいところの演技の上手さがかっこいいんでよね、皆さん。あと、お人柄がいい。真剣そのもの。そして立ち姿に品があります。

 野間口徹さん。間がうますぎ。笑顔も何通りも駆使されていて、私は笑うよりも感嘆のため息をつく方が多かったかも。
 竹井亮介さん。おっちゃんキャラがものすごく自然で、かわいいです。癒されました。
 伊藤美穂さん(動物電気)の出番が少なくて残念でしたが、やっぱり出てこられると華。笑顔がすごい。

出演 嶋村太一(劇団桃唄309) 竹井亮介 野間口徹 伊藤美穂(動物電気) 梅澤和美(Hula-Hooper)
スタッフ 舞台監督:寅川英司 舞台美術:斎田創 照明:大川貴啓 宣伝写真:松本謙一郎 制作:森千江子(回転OZORA) 企画製作:故林広志prd.

大故林 内 親族代表 : 
 http://odakhyper.cool.ne.jp/daikorin/shinzokudaihyou/shinzoku.html

Posted by shinobu at 22:48

ITPoT.C『フルチンチン2004』02/05-15下北沢「劇」小劇場

 ITPoT.Cは"in the presence of theater company"の略。インプレと呼ばれているようです。いわゆる即興演劇メソッドから作品を作り上げていくとか。

 去年好評だった『フルチンチン』の再演ですが、内容は全く違いましたね。同じ作品の再演だと思われそうなチラシ・ビジュアルでしたが、全くの新作だと言っていいと思います。

 お目当てのストリッパーを追いかけて熊本から東京に出てきた男、海で行方不明になった妻を捜しながらストリップ小屋で働く男、「男性ストリッパー募集」のチラシで訪れた性同一障害の男など、どこかしら屈折した面を持った登場人物たちの、リアルで真面目なやりとり。合間に素朴な笑いや明るいダンスが入ったりしながら、一人ひとりのドラマを描いていきます。

 男性ストリップをやることになる男たちそれぞれの感情が伝わってきて、何度か泣けました。ただ、ラストの肝心の男性ストリップ・ショーで盛り上がれなかったんですよね。深刻なドラマを長く丁寧に描かれていて、ちょっとくどいかな、と思うくらいでしたからね。突然ストリップショーになるのではなく、ストリップをすることに至る最後の瞬間を描いてそれをクライマックスへの助走にすれば、前回同様に客席からも拍手や声援があったのではないかなと思いました。

 熊本から出てきた男の子が、ドリカムの“LOVE LOVE LOVE”の歌詞「ねえどうして すごくすごく好きなこと ただ伝えたいだけなのに るるるるるー 涙が出ちゃうんだろう」をサラっと歌って、自分がそういう気持ちだと言うのがとても良かった。歌で聞くよりも心にずしりと伝わってきました。暖かい熊本弁(博多弁?)だから、より良かったのかもしれません。

 選曲に演出家さんのお好みがくっきり出ていました。ヴォーカルのある音楽が多かったですね。キャロル・キング、ジャニス・ジョップリン、ビギン(沖縄)等。歌詞とストーリーがぴったり一致していたり、歌が主役っていう感じの演出もチラホラ。映画『フルモンティ』の音楽はやっぱりいいですね。私の好みと被っているので嬉しいことは嬉しいのですが、歌ばかりに集中してしまってストーリーから完全に頭が離れたりしてしまいました。ちょっと音楽に個性がありすぎかも?

 前回と比べて美術がグレードアップしていて嬉しかったな~。でも、ストリップ小屋とライブハウスの区別がつきづらかったので、わかりやすく照明を工夫しても良かったのではないでしょうか。

 ストリッパー役の白須陽子さんのダンス(ストリッパーの、それです)がめちゃくちゃ美しかった!女の私も見とれました。スタイルもいいし可愛いし、こりゃ追っかけファンにもなるよねって納得です。

 私がインプレを観ると必ず出演していらした荘司優希さんが出てなくて驚きました。チラシにも当日パンフレットにも名前が載っているのに。「何かトラブルがあったのかしら」とか余計な想像が膨らんでしまったので、出演しない理由を何らかの形で知らせていただけたら良かったと思います。(どこかにそういう告知があったのならごめんなさい。私は見つけられませんでした。) 
 コンドーム付きの当日パンフにも驚きました。募金もしました。あまりの勢いに押されて・・・。

出演 米川さち 甲斐純一郎 佐藤顕紀 福本亜紀 坂下恵 安井治次郎 菊川仁史
スタッフ 照明:若林恒美 音響:土屋由紀 美術デザイン:吉野章弘 舞台美術:作手皆舞台 舞台監督:川村彰 宣伝デザイン:tansu inc. 
Music:原崎忠雄 
Written & Directed:塚越由矩典 

in the presence of theater company(インプレ): http://www.inpre.net/

Posted by shinobu at 18:42

2004年02月07日

JACROW『きんぎょ』02/5-8中野MOMO

 JACROW(ジャクロウ)は中村暢明さんお一人で立ち上げた完全プロデュース方式の演劇プロジェクトです。今回は私が制作をしているRel-ay(リレイ)の役者、永野麻由美が出演させていただきました。

 とあるアパートの2階の部屋が舞台。スーパーマーケットのバックヤードで働く5人の男の子たちが同居してます。「振られちゃったけど、あきらめられない。君は僕のことを知らなさ過ぎる。だから、君を誘拐したんだ・・・。」

 素朴なテイストのブラックジョークが淡々と続き、無垢な少年達の物語はちょっとずつ危険な方向へ進みます。細かい性格描写やすっとんきょうな展開など色んな仕掛けがある脚本にしては、全体的に舞台の演出が静か過ぎたんじゃないかと思いました。

 ネタバレします。

 照明が寂しかったです。アイコちゃん(レジの女:永野麻由美)捕獲ストップモーションはストロボだとかっこ良い気がするし、時間を“巻き戻して早送りする”アイデアがすっごく素敵なので、もっと大胆な遊びがあっても良かったんじゃないかなー。ヒロインが突然カラオケ状態になり、そこにムーディーダンスとイメージ映像が同時に起こるオープニングは、パカパカ、テカテカするようなド派手な色彩が欲しかったです。

 音響は意図通りに表現できていない印象でした。ストーリー・テラーの少年の独白が録音で流れるのですが、ノイズが気になりました。また、音楽を流す直前の間(ま)とかスイッチを入れる瞬間とかが観客に伝わってしまっていた気がします。特徴のある音楽が沢山かかりましたので、もったいなかったです。浜崎あゆみの曲がかかるのは奇妙な感覚でしたね~。お芝居ではなかなか聞かないですし(笑)。かなりのポイントでした。

 5人の男の子たちの妙な仲良し度と純粋さが拉致・監禁とミスマッチなので、良い意味でストーリーに掴みどころがないんですよね。アンバランスなのは好みです。彼らのダサさとかクサさとかの、さぶ~い感じを笑いに持っていくのは楽しかったです。

 ラスト近く、社長(西村晋介)が部屋から出て行った後、アユミちゃん(不倫している女:金崎敬江)とトモヤ君(ストーリーテラー:川上冠仁)が二人で話すシーンが良かった。何もかもが終わってやっと本音で話せた二人の、リラックスした演技がすがすがしかったです。

作・演出;中村暢明
キャスト:金崎敬江(bird's-eye view) 勢登健雄(トラブ6) 川上冠仁(Attic Theater) 永野麻由美(Rel-ay) 香川亮(air:man) 西村晋介 吉永隆之 湯田昌次 洪明花 太田恭輔(ブラボーカンパニー)
スタッフ 舞台美術;伊藤秀男 照明;清水朋久 音響;上野雅 映像;佐原美穂 振付;香川亮・金崎敬江 衣装;中西瑞美 小道具 村田真紀 宣伝美術;水沼勇一 舞台監督;杉江聡 舞台監督補;亀川朝子(ベターポーヅ) 制作;JACROW 制作協力;吉野礼・浅見絵梨子(演為)

ジャクロウ : http://www013.upp.so-net.ne.jp/jacrow/

Posted by shinobu at 01:17

2004年02月03日

マンションマンション『3年パンク』01/29-02/1下北沢OFF OFFシアター

 ピチチ5(クインテット)の福原さんの脚本・演出なのでウハウハです。
 またもや肩が震えて心が温かくなりました。最前列ど真ん中の席でうずくまりながら、あっけにとられたり大声で笑ったり、感動でボロボロ涙垂れ流し状態になったり。最後まで迷いなく添い遂げました。
 ピチチ5『大クラシック』でもらったのは、純情。
 『3年パンク』でもらったのは、愛です。

 私が福原さんの脚本に初めて出会ったのは『第1回歌フェスティバル』というイベントでした。その時は「歌おっ」と言って突然脈絡なく歌うブサイクな女の子たち(男優さんが演じていました)に、とにかく力を見せつけられたというか、生の男子の底力っていうものにストレートに感動しました。

 超現実的な長女、やる気のない二女、がんばりどころを間違った三女の、性格バラバラの3人姉妹が経営するさびれたレンタルビデオ屋が舞台。そこにやってくるのは夢のないバイト君、エロビデオばかり毎日借りる中年男、性欲を押さえられない中学生・・・。だめだめな日々に突然起こった長女のかけおち事件が、店にちょっとした変化を持たらし・・・。

 開演してからすぐの「愛されている限り、私は無敵なのだ。」でまず感涙。そうなの!女ってそうなのよっ!!
 "Only You"を熱唱するのにBGMは大音量で"I can't help falling in love with you"。全然合ってないんだけど、両方の歌のラブが伝わってきて笑いながら泣きました。なんて不恰好でバカ正直な愛。
 クラシック音楽が溢れる中、身長3000mになった(本当になります)男の愛の告白。「俺の鎖骨が見えるかい?」「君よ、俺に住め!」

 ジャリ銭が上から降って来たり、手紙を燃やしたら大きな炎が出たり、生の仕掛けがライブ感を盛り上げます。その散らばったコインを暗転中に天使がちりとりで片付けたり、小さなお立ち台に立って抱き合う男女の足元の穴からしょぼい光が差す、などのへなちょこ感も手堅く笑いを誘いました。
 かかる音楽が全部ツボでした。時代遅れで、しめっぽくて、もしかするとちょっぴりかび臭いような(失礼)、けれど人間の心の奥底に変わることなく流れ続けている、優しい音楽たちでした。

 幼い頃、お父さんと一緒に行ったうどん屋台を思い出しました・・・。寒さに震えながらハフハフ美味しそうに食べたのですが、実はあまり美味しくなかった。だけどお父さんと一緒に食べていることが嬉しかった。そんな恥ずかしいような、くすぐったいような嬉しさと似ています。顔が自然とにやけてしまって、心の底からあったまって、急いで歩く父の背中に小走りで近づいて手をつかまえて、「お父さん、また連れてって」とは言えないまま、無言で手をつないで家に帰ったなぁ・・・おっとっと、昔の思い出にすっかり浸ってしまいましたが、まさにその、誰もが持っている夢のような懐かしさがこのお芝居の土台になっていると思います。そこに現代の素っ裸の感情と本物の愛がプラスされて、私の想像力と感情は飛んで飛んで宇宙へとつながったのです。ゴジラと同じ大きさの男の鎖骨のくぼみに住む、彼女が見えました。

 あぁ、たたみ半畳の自分の世界から無限の広がりへ。想像力を自由にしたモノ勝ちですね!

 根上彩さん(青年団)。かけおちする姉役。元オッホ所属の方だそうです。お芝居が進むにつれてどんどん美しくなってくるんです。女って魔性です。
 植田裕一さん(蜜)。かけおちする客役。昔お一人でのパフォーマンスを拝見した時は「この人コワイ」って思ったのですが(笑)、Chintao Recordsやピチチ5など、劇団でお見かけすると「キュートだなぁ」と思ってしまいます。目が離せない怪優ですね。

作/演出 福原充則(ピチチ5)
出演:植田裕一(蜜)、高井浩子(東京タンバリン)、富岡晃一郎、根上彩(青年団)、三浦竜一(暴動mini)、横畠愛希子、熊田プウ助、柿崎弘美、芹澤セリコ(動物電気)、多田幸生、松本佳則
舞台監督:松下清永 舞台美術:福田糸重 照明:田原聖子(LIGHT STAFF) 音響:中村嘉宏(at Sound) 宣伝美術:齊藤拓 宣伝写真:水野敦史 制作:吉野礼、今井由紀

マンションマンション : http://www.ne.jp/asahi/de/do/ms.html

Posted by shinobu at 18:28

2004年02月02日

文学座『風の中の蝶たち』01/30-2/8紀伊国屋サザンシアター

 浅野雅博さん(文学座)目当てで観に行きました。高橋礼恵さん(文学座)も好きだし。
 明治時代の自由民権運動のお話で、実話を元にしているようです。

 つまらなくて驚きました。紀伊国屋サザンシアターで一体何が起こっているんだろう?と。途中休憩で帰ろうかと思ったのですが、浅野さんの行く末も気になるし、稽古場雑記(のりのり散歩道)を読んで楽しみにしていた高橋さんの殺陣もまだ披露されていなかったので、そのまま残りました。後半が始まると、さすがは文学座のお客様です。私の隣りと前だけでも4人いなくなっていました。賢くて厳しいお客様です。

 あんなに貫禄があって技術のある役者さんが勢ぞろいなのに、展開が軽くてどんな事件も素通りしてしまう。恋愛が山ほど出てくるのに全く色気がない。脚本はそんなにつまらなくないと思うんですよね。演出のせいじゃないのかなー。もっともっと濃密に、皮肉に、そして最後は切ないけれど暖かく終わらせることが出来たんじゃないかなー。

 まず、音楽が無かった。人が熱い恋の告白をしたり、裏切ったり戦ったり死んだりするのに、ピチピチと泣くすずめの声や、せみの声、人ごみ、船の汽笛などの効果音しか鳴りません。最後のエピローグ部分(?)で初めて音楽がかかったと思いますが、雰囲気としてはまるで「徹子の部屋」のエンディングみたいな感じでした。
 美術もさびしかったですね。舞台奥のホリ幕が見え過ぎだと思います。いろんな場所に転換するからシンプルにするのも手段の1つですが、あまりにインスタントでした。
 あと、楽しみにしていた殺陣なんですが・・・もともと高橋さんはそれを得意とする役者さんじゃないようですし、それを踏まえて作らないと絵にならないと思います。でも、殺陣の後の高橋さんの演技はやっぱり素晴らしかった。声もいいし素敵な女優さんだと思います。

 エンディングがまたまたびっくりでした。加藤武さんが観客に向かって登場人物の行く末を一人で全部しゃべってしまうという大技。いやー・・・なんとかなるというか、なんとでもしちゃうんですね。加藤武さんの凄さを再確認いたしました。

脚本:吉永仁郎(山田風太郎原作による) 演出:戌井市郎
出演:北村和夫・加藤 武・原 康義・石川 武・押切英希・中村彰男・田中明生・大原康裕・浅野雅博・岸槌隆至・松井 工・外村史郎・山本郁子・山崎美貴・高橋礼恵
スタッフ:装置…中嶋正留 舞台監督…寺田 修 照明…山内晴雄 演出補…黒木 仁 音楽…坂田進一 制作…白田 聡 音響効果…秦 大介 票券…松田みず穂 衣裳…中村洋一 殺陣…渥美 博

文学座 : http://www.bungakuza.com/
浅野雅博ファンサイト「かーてんこーる」 : http://gohatto.jpn.org/asano/

Posted by shinobu at 23:24

2004年02月01日

Sun's PROJECT『バンク・バン・レッスン』01/27-2/3新宿御苑・サンモールスタジオ

 劇団ショーマは1982年旗揚げの劇団です。小劇場演劇の傑作作品を沢山生み出して来られました。今回は主宰の高橋いさをさん、ご本人の演出で『バンク・バン・レッスン』を上演。色々な劇団で上演されている演目の本物登場というわけですね。
 私も学生時代に『ボクサァ』を上演(スタッフとして参加)させていただいたことがあります。

 劇団ショーマHP内 劇団略歴にあるとおり、この作品は「登場人物たちが芝居を演じるうちに現実と虚構のパラドックスにはまり込んでいく様を描いたもの」でした。

 残念ながら私には合いませんでしたね。役者さんの生々しい演技とか、紋切り型のセリフづかいとか、音楽がずーっと鳴っていることとか。「登場人物たちが芝居を演じる」という展開になるのにムリを感じたことが一番つらかったです。

 最初の1時間はつらいまま過ぎてしまったのですが、「女銀行員(南口奈々絵)が実は黒幕だった」という展開でパっと舞台が引き締まり、それから最後までは集中して観ていられました。虚構の世界での出来事がどんどんとエスカレートしていき、最高のテンションに至ってから現実に戻って来るのですが、現実の世界からそれまでに皆で作り上げた虚構を振り返る時のすがすがしさは、どんなことにも当てはまる気がしました。

 人間の脳が成し遂げる、想像と現実との超高速フィードバックこそが、人間の無限の可能性なのではないでしょうか。何も無い舞台上で、役者の力だけでそれを表現することが、劇団ショーマの偉業なのではないかと思いました。

 山本満太さん(劇団ショーマ)が昔演じられた役を今回も演じられているそうです。体型が全然違うらしいですが、信託銀行支店長役としては貫禄があって良かったですよね。「パン!パン!」とピストルを撃つ音を連呼されるシーンはすごかったです。

作・演出 高橋いさを
出演:山本満太(劇団ショーマ)・加治木均(絶対王様)・南口奈々絵(劇団ショーマ)・藤岡豊・今里真(サッカリン・サーカス)・松本真・菅泰則・桜木さやか(聖ルドビコ学園)
照明:紀大輔(六工房) 音響:小笠原康雅(OFFICE myon) 舞台監督:宮脇良太 宣伝美術:沓掛章子 制作:サンモールスタジオ 企画制作:佐山泰三

劇団ショーマ : http://www.interq.or.jp/kanto/fumi/showma/

Posted by shinobu at 15:27