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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2003年04月30日

InnocentSphere『渾沌鶏(マロカレタルトリ)-EXILE'03-』04/29(緑の日)パルテノン多摩小ホール

 第16回パルテノン多摩小劇場フェスティバル(パル多摩)でグランプリを受賞しました。
 (ベストスタッフワーク賞、ベストフォトジェニック賞も)
 私はお友達の日高勝郎さんが出演するので観に行きました。

 源義経や弁慶、源頼朝が活躍する源平合戦を下地に、鬼、陰陽師、式神などの和風オカルト要素を絡めて現代風な設定と台詞で回していく歴史ものオリジナル・アクション・ストーリー。

 衣装、ヘアメイクがその世界観をよく表せていて、照明もアクションにぴったりで機能美を感じるほど。役者の殺陣やコンビネーションも必死で頑張っている様子が好感を持てました。ちゃんと上手だし。全てがサイズにぴったりというか、バランスのいい、統一感のある作品でした。ギャグは内輪うけが多かったけど。

 オープニングめちゃくちゃかっこよかったな~。映像とアクション、役者紹介がぴたりと決まっていました。ただ、全体の上演時間は長かった気がします。ちょいと疲れちゃった。

 日高勝郎さん。鬼の役。台詞はほぼゼロ。 だからたまに人間の言葉をしゃべる時のあの輝きが心を打ちます。動きがかっこいい!表情が切ない!ファンになっちゃったよ!!でも劇団員じゃあないんですね。次回公演も日高さんが出るなら観に行きます。

 パル多摩って初めて行ったんですが、ほんっとに遠い!平日仕事だったら19時開演には絶対に間に合わないです。でも、祝日のお天気の良いお昼間に、てくてくお散歩気分で伺ったのですごく楽しかった。ホールも新しくて広くてきれいですしね。

パルテノン多摩HP : http://www.parthenon.or.jp/
イノセントスフィアHP : http://www.innocentsphere.com/

Posted by shinobu at 23:32 | TrackBack

2003年04月25日

Oi-SCALE『マッピー』04/23-27明石スタジオ

 林灰二さんの脚本が魅力のオイ・スケール。私は2度目です。

 少年院から出てきた少年、行方不明の兄、3人のヤクザ、首吊り死体などが出てくるハードな設定です。でもそのキワモノな怖さとかを全く感じないんですよね。(あ、死体はそれ自体がやっぱり怖いけど)林さんの脚本は全てを見越したような冷めた視線を保ちつつ「こんなの、いかがですか?お気に召すといいのですが・・・。」と丁寧に差し出す態度が感じられます。

 自分の頭の中の想像と現実が交錯していく主人公。素朴に淡々と語る独白がとても聴きやすかったので、尋常でない設定を背景としてすんなり受け入れられました。電車のシーンでは、面白いアイデアでオブラートに包まれた暴力シーンが作られていました。表現している具体的内容は非常に怖いお話なのですが、すんなり受け入れて入って行けるのは無理やり押し付けないからじゃないかな。どこか冷めていて、引っ込んでいて、どこか優しい。なんか透明なんですよね。感覚というか、肌触りが。

 前回の『無修正アレルギー』でも良かったですが、今回も舞台装置がとても良いです。低予算で作られているのが見て取れますが、効果がちゃんと出ているので気になりません。愛らしくさえ感じます。地下と地上を上手く現していましたね。遊び感覚もあって楽しいし。

 照明をカットアウトするタイミングがすごく気持ちいいです。映画に似てる感じもありますが、映画ほど鮮やかすぎないのがいい。パンク色が強いんだけれど、ものがなしくて心地よい選曲。

 無駄に長いおさげを首にぐるんっと巻くんですが、その動作自体がさらに無駄なので笑える。
 ピーポ君人形を持ってかざして「警察だ。」は可愛い。
 首吊り死体のお父さんの声色が良かった。

 明石スタジオで2時間のお芝居。腰が痛くなったのと足の踏み場が狭すぎたのがちょっと辛かったですが暗い世界観ながらも予想を軽快に裏切ってゆく展開に心の隅っこでわくわくしながら、3~4つの世界が重なっていき、最後になるほど!と唸らせられるまで満喫しました。ラスト近くの主人公のセリフ「もうかんしゃくは起こさないよ。」に感動。(セリフは完全に正確ではありません。)

 OiSCALEのHP : http://www.oi-scale.com

Posted by shinobu at 20:39

2003年04月23日

ダムダム弾団『たまご/Timeless Bomb』04/17-20シアターブラッツ

 作・演出の藤森俊介さん曰く「コントなのか芝居なのか、色んな笑いがいつのまにか一つの物語につながるような作品」だそうですが、確かにそんな感じでしたね。コントどころか吉本興業の方が漫才ユニットみたいに出られてて、本当にちゃんとした漫才でしたし。

 でも、わざわざ一つにつなげる必要はないのでは?と思いました。難しいですから。それと、演劇をやっている人を題材にするのは極力避けた方がいいと思います。それだけでちょっと引いちゃうので。

 友達と同居してて、結局そいつとヤっちゃう女の子のルックスがとても良かった。スタイルいいし。ラストに初めてちゃんと笑うんだけど、その笑顔がすごくキュート。

 「プチ整形して、目じりを目元にした。」には笑いました。

 ダムダム弾団HP : http://www.dumdum-dandan.com

Posted by shinobu at 23:53 | TrackBack

2003年04月19日

NODA MAP『オイル』04/11-5/25シアターコクーン

 野田秀樹さん脚本・演出・出演のプロデュースユニットNODA MAP(野田地図と書かれたりもします。)の第9回公演。毎回超豪華キャストですがメイン・キャスト以外をワークショップという名のオーディションで選ぶことも多々あり、プロの舞台役者になる道への、入り口のひとつになっている様相もありますね。

 拝見して私は、野田さんのアイデンティティーを賭けた、ストレートなお説教を拝聴している気持ちになりました。体験できたことに感謝できる現代日本の最高レベルの演劇作品であることは間違いないです。しかし、物語ではありません。ある主張です。それを踏まえて観ることができれば、宝物の体験になると思います。のちほどネタバレ感想を書きます。

 ※何度かお問い合わせをいただいたので加筆します(2007/01/14)。
 「お説教」というのは私にとってはすごく貴重でありがたいものです。言いづらいことを本気で正面から言ってくれる年上の日本人としても、それを舞台で生身で表現してくれる演劇人としても、野田さんを尊敬しています。野田さんはお説教なんて言うつもり全然ないのでしょうけれど。

☆NODA MAP『オイル』ネタバレ感想

 『オイル』は“物語”ではなかったです。寓話という形式をとった野田さんの主張でした。オイ(老い)たことを自覚し受け入れた大人の日本人が、命から搾り出した、憂国の心のお説教。

 日本語の「あいうえお(50音)」から「アメ」「ツチ」「ソラ」・・・が生まれ、神様は残った文字から「ヘン」なものをつくった。それは「ヨナレヲセヌヒト」と・・・というくだりは古事記をモチーフに語られています。その最後の文字が「オヰル」だった。それを「老いる」「OIL」とつなげ、「時間」「石油」というキーワードを元に古事記の時代、原爆投下直前、そして現代の日本を縦横無尽に旅します。アマテラスオオミカミ、特攻隊、原爆投下、ギブ・ミー・チョコレート、9.11。

 「アメリカは他国に原爆を落としたたった一つの国よ。」
 「アメリカが落とした原爆に何十万人も殺されて、なんでガムが噛めるの?まだ1ヶ月しか経っていないのに、なぜハンバーガーが食べられるの?もう忘れてしまったの?」
 「老いて死んだ者たちが土の中で腐って溶けてそして石油になる。石油が燃えるのは復讐心が燃えているからだ。」
 「教えて。天国があるならなぜそれはあの世にあるの?なぜここに作ってはくれないの?」
 「あなたの助けが必要なの。神様!」 (※セリフは完全に正確ではありません。)

 野田さんは長崎生まれです。今までわざと避けてきた原爆のことをこの作品で描いています。当日パンフにも「今、書かなければならない。」と書いてらっしゃいました。このアイデアは今から1年半前から思いついていらしたそうですから、イラク戦争の前から存在したお芝居です。いつもの野田さんの脚本に比べてセリフやネタが非常に平易です。わかりやすさを心がけたのだと受け取れます。

 堀尾幸男さんの美術。今回は天井を低く作って横に広がりをイメージさせることで砂漠や草原、焼け野原を思わせました。パネル、大道具、全てが芸術的だけれど、あくまでも野田さんの意見を伝えるための道具として存在していました。ストイックで知的だと思います。大勢の人間の力を合わせて完成度の高い作品を作るには、まず頭を使わなきゃならないんですね。黒い昇龍、文字の傘、小さな落下傘が灰色に近い透明のビニールで出来ていたことは環境破壊を想像させました。

 ワダエミさんによる衣装。ひびのこずえさんの衣装よりももっと作品の意図を伝えるために存在していました。美術と同じですね。早替えが見事。

 選曲はあいかわらずひどいです。なんで以前の作品と同じ音楽を使うのかしら・・・。それから、感動的な(それを狙った)シーンに感動的な音楽というのはいい加減にやめて欲しいですね。完全に冷めてしまいます。野田作品というと、そこだけがいつも苦々しいです。

 今回の出演者は、全員がパフォーマーとして存在していました。誰か一人だけが目立ちすぎることもなく、居るのかどうかわからない役もなかった。全員が一人ずつで輝いていた。One for All, All for One(一人はみんなのために。みんなは一人のために。)が成立していた気がします。私が今までに観たNODA MAP芝居の中で役者の存在感が一番気持ち良かったかも。

 松たか子さん。素晴らしかった。私は松さんがとても苦手なのに今回は心から彼女を受け入れられました。彼女の強い自負心や回り(の役者)に対する威圧感が不遜に見て取れたことがあって、一時期はとても不快だったのですが、それが全くなかったです。やっぱり攻撃的な性質はそのまま在りますが、そういうキャラが野田芝居にぴったり。野田さんの演出・稽古が彼女の持ち味をベストの方向に生かしたのだと思います。どんどん色んな事を経験して勉強して前に進んでいらっしゃるんですね。オープニングで彼女だと気づかなかったのがすごく嬉しかった。

 藤原竜也さん。やっぱり天才。出てきただけでそこは彼の世界。私は吸い込まれます。長ゼリフを流暢に完璧にこなし、感情をしっかり載せて、しかも意味をきちんと伝えられる若い俳優。あそこまでできるのは彼以外にいないと思います。

 小林聡美さん。美しい。存在が優しさそのものです。この出会いに感動です。声もキレイでセリフも完璧。

 ありがたいことにとても良い座席で拝見することができたのですが、全てがあまりにヴィヴィッドで刺激的だったため、もう少し後ろの方がよかったかも、と思ってしまいました。それぐらい光を放っていました。それくらい胸が苦しくなりました。

NODA MAPのHP : http://www.nodamap.com/

Posted by shinobu at 10:15 | TrackBack

2003年04月17日

3軒茶屋婦人会『ヴァニティーズ』04/16-23本多劇場

 篠井英介さんが出演されるので、何も考えないでG2プロデュースの先行予約でチケットGETしました。男3人芝居、しかも全員が女装するってことだけは知っていたんですが。

 アメリカの60年~70年代を舞台にしたウェルメイドの三幕ものコメディーでした。オフ・ブロードウェイでロングランされた作品なんですね。
 時代とともに、それぞれの経験とともに変わりゆく、3人の幼なじみの女たちの生き様を描き、思いっきり笑わせてくれて、そしてほろりと涙させてくれます。

 G2さんがこんな翻訳ものを演出されるなんて!そこがまず良い意味で予想外。そして本多劇場だってこともすごく新鮮。パルコ劇場とかでやりそうですもの。

 本気のチアガール姿の男たちが出てくる一幕目は、ただただ3人の男優さんたちの見事な変身振りに感心するばかり。
 二幕目になると1人1人がその女性自身に見えてきて、徐々に感情移入して行けました。
 三幕目では、3人のそれぞれの悲しみに共感を覚えて、苦しくなって涙がこぼれました。

 転換の時に可動式の美術を移動させながらみんなで着替えるのがすごく可愛かった。西洋演劇によくありますが、セリフの嵐です。セリフの上にまたセリフを重ねていきます。3人とも演技がお上手だし、男性だからというのもあると思うのですが、無邪気に堂々とされているのが面白い。繊細すぎない、神経質さがないおかげで、より内面的なことがクローズアップされるんですね。これは企画の勝利だと思います。

 『ヴァニティーズ』は英語でVanity(虚栄)の複数形です。いたしかたない虚栄の積み重ねが人間を苦しめていくんですよね。またそれが無意識に張っているものだから手のつけようがない(苦笑)。それに気づいて、それを受け入れて、生きていけたらなって思います。

 前売り完売ですが当日券が出ていますし、4/20に追加公演がありますよ。

 G2プロデュースHP : http://www.g2produce.com/

Posted by shinobu at 15:24 | TrackBack

2003年04月14日

ロリータ男爵『プリマ転生』04/09-13中野ザ・ポケット

 ロリータ男爵は多摩美術大学から出てきた劇団です。私は出会って3年ぐらいになるかな。『花魔王』@フジタヴァンテからずっと通っています。

 あ~・・・ロリータ男爵、満開でした。相変わらず圧巻の舞台装置と衣装。映像も紗幕も使い方がどんどんレベルアップ。歌も聴き応えがありました。バレエのお話ということで役者の皆さんがバレエの特訓をなさったようで、微笑ましかったです。

 ロリータ男爵は私にとって、そろそろ劇団☆新感線のような存在になってきている感じがします。毎回、ストーリーや装置、衣装などももちろん楽しみなんだけど、もうロリータ男爵っていうだけで自動的にチケットを取っている感じ。座付き役者さんの大部分のファンになっているので「あの人は今回はどんな役?」とかがすごく楽しみになっているんです。予定通りに楽しんで、帰る。つまり固定ファンになっているというか。

 だから客観的な見方をするとなると、ちょっと違ってきます。正直なところ、お客様を激しく選んでしまう種類のお芝居だと思いますね。こういうファンタジック・ナンセンス&ぬるめの展開を楽しめない方も多いのでは?装置も衣装もあえて手作り感覚がアピールされています。高品質を狙ったものではありません。ものすごく個性が濃くてそのセンスに妥協がないので、好きでなければ飽きが来る可能性が高い気がします。毎公演、開演から1時間ぐらいでお腹いっぱいになってしまうのは、そのせいかと思います。

 斉藤マリさん。全く、何でも出来るんだな~・・・ため息モンです。黒塗り大変そうですね。でもなぜ黒に?しかも全身??
 足立雲平さん。キワモノ役が多いのですが今回はあどけない美少年役。上手いし可愛いし、も~完璧です。
 加瀬沢拓未さん。歌舞伎役者のような発声と所作が目に耳に嬉しい。このために勉強されたのだと思います。

 こうやってどんどんと成長されている俳優さんが多いのが、このロリータ男爵の魅力だと思います。やっぱり見続けたいですね。

 キャラクターではKISS(アメリカの超有名バンド)の格好をした地獄の鬼(?)たちが可愛かった。

ロリータ男爵 : http://www.lolidan.com/

Posted by shinobu at 22:42 | TrackBack

2003年04月12日

シベリア少女鉄道『笑ってもいい、と思う。2003。』04/10-14王子小劇場

 シベリア少女鉄道(シベ少)は3回目です。今度はどんなアイデアだろう?と思ってついつい通ってしまいます。
 あと、女優さんが可愛い!男優さんにも愛着が湧いてきてしまいました。こりゃ追っかけるか!?

 あいかわらず鮮やかな変身振りで驚かせてくれますし、細かいこだわりに脱帽。バカみたいにクソ真面目に考えて作られたであろう、くだらない顛末に心から感心します。でも、私はあんまり笑えなかったな~・・・ネタがネタなんで。いや、私、詳しくないんですよ、アレについて。よく知っている(慣れ親しんでいる)人にはすごく面白いかもしれないけど。

 ネタふりの部分(つまり前半)の暗い話が良かった。セリフがすごく長くて細やかですよね。味わい深いです。よくこんなにまともなこと書けるなぁと思いますよ、ラストがあれですから。つまり全て計算通りということなのでしょう。すごいことだと思います。ただ、ちょっと長いです。私的には、お話をちゃんと成立させる必要を感じません。あのパっとした変化でもうご馳走さま気分なんです。

 女優さんはもちろん良いし、男優さんもルックスがいい人が多かったです。演技も前に比べたら随分うまくなられてますよね。気持ちがいいです。

 初演は3時間あったそうです。3時間やろうと思ったらできるよね。納得。

 王子小劇場を最大限に使ってらっしゃいました。すごい。
 宇多田ヒカルが良かった。

シベリア少女鉄道HP : http://www.siberia.jp/

Posted by shinobu at 22:12 | TrackBack

2003年04月08日

新国立劇場演劇『マッチ売りの少女』04/8-27新国立劇場 小劇場

 別役実さんの戯曲はコント(ケラさんとやったやつ)しか観たことがなかったので、私はほぼ別役・初体験です。演出は燐光郡の坂手洋二さん。それにしてもハンサムですよね。全然関係ないですね、はい、すみません。

 開演前のあんなに静かな客席は真の意味で初体験でした。幽霊さえも出て来られないであろう、体まで溶けて消えてしまいそうになる静寂と一体感。そして真っ暗闇から女の声。線の細い、神経質な高い声が憂いを込めて語りだします。マッチ売りの少女の物語を・・・。

 面白かった~!怖かった ~っ!震えてしびれた~っっ!!
 「こんなの初めて!」と感じる体験が非常に多い芝居でした。

 別役さんの脚本は言葉のからくりをしたたかに二重、三重に張り巡らし、観る者にもやる者にも全く隙を与えません。
 坂手さんのメッセージはいつもより肌触り柔らかだけど、一度開いた目を閉じられないほどヴィヴィッドで、残響・残照の嵐。
 妹尾河童さんの舞台装置はお得意のリアルと、相対する超モダンの大胆な配置で、客席ともども完全な異空間。白い雪も降れば黒い玉も降る。見たことのない新国立劇場・小劇場でした。私は最後まで緊張したまま座席にへばりついていました。

 主体性の恒常的ゆがみ、記憶と忘却の繰り返しなど、同心円・渦巻き状のステージから導き出されるさまざまな視点。ぐるぐると、ゆっくりと回転・反転する舞台は人間の内的世界を観客の脳内にぽつねんと浮かび上がらせ、観客はおのずと類似体験を引き出し、めぐらせます。嘘か誠か。正か誤か。愛か憎か。戦後日本の不確かさが生んだ新しい不幸の形。それは表層を変えながらも現代にそのまま引き継がれているのだと思います。私達はそれに気づき、今をしっかりと見つめ、私達の先祖が残した膨大な宿題と対峙していかなければならないのだと思います。

 寺島しのぶさん。彼女の感情的な演技は好みが分かれると思いますが、今公演については、個人的に最高につぼでした。真面目で一途な狂女を熱演。おびえる表情がなんともあわれ。最後の一人バトルは圧巻。
 富士純子さん。やっぱり大女優さんだな~。しなやか。あったかい。天然の穏やかさを感じます。彼女のおかげでお芝居がノーマル(観客フレンドリー)だったと思います。演出のバランスの妙ですね。
 手塚とおるさん。笑顔が不気味。存在がすでに怖かった。適役ですよね。
 猪熊恒和さん(燐光郡)。代役のさらに代役に抜擢。でもやっぱり40代で72歳の代わりをするのは難しそう。これからかもしれません。

 見ごたえあり過ぎです。しびれます。疲れます。涙が出ます。体調を万全にして、気力を温存して、この劇場空間とともにその世界の顛末まで到達できれば、すごく貴重な体験になると思います。

新国立劇場HP : http://www.nntt.jac.go.jp/

Posted by shinobu at 21:22

2003年04月06日

tpt『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』03/21-04/13ベニサン・ピット

 『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』はアメリカ人戯曲作家、エドワード・オルビーの作品です。ピュリッツァー賞を2度受賞されています。最近は『動物園物語』がよく上演されていますよね。

 ある大学助教授の家。彼の妻は学長の娘。そこに尋ねてくる若い新任助教授とその新妻。4人芝居です。

 汚い、醜い、人間の愚かさの大展覧会でした。皮肉、暴力、脅し、狂気、不実、偽善、嘘、裏切り・・・。その醜悪さは、悲痛な心の叫びとなって観客の胸に届き、最後にはささやかな愛が与えられます。逃げ場のない、自ら滅びゆくダメ人間達への、優しいまなざしを感じられる脚本でした。

 しっかし苦しかった・・・。役者さんの演技がナーバス過ぎました。見ていられなくてうつむく事もしばしば。疲れた。もっとコメディーとして作って欲しかったです。
 最悪の事態を笑いで軽快に乗せていき、役者も観客もだんだんとその惨事の連発に麻痺していくようにして、最後の最後にどん底に持ち込んでから、暗闇に一筋に光るような、指先に小さく灯る愛を見せれば、泣ける芝居になるはずだと思いました(勝手ながら)。そうすれば登場人物の尋常じゃない汚さも、自分に身近なものに感じることができるはず。あれだと異常者の集まるランチキパーティーを覗いているだけになっちゃう。もっと感情移入して、彼らの味方の側に立って観たいです。

 この『ヴァージニア・・・』というタイトルはディズニーのアニメ『三匹のこぶた』に出てくる歌の”オオカミなんかこわくない(Who's afraid of the Big Bad Wolf?)”から来ているそうです。ヴァージニア・ウルフというのはイギリスの女流作家でアカデミズムの権化的存在だとか。そういう細かいところにインテリ向け楽しさに、私はゾクっとします。深いところまでわかったら楽しいですよね。エリザベス・テーラー主演の映画もあるんですね。観たい。

 tptのパンフレットは毎回必ず買うのですが、スタッフのページが写真入りだったのがすごく嬉しいです。tptは舞台芸術の総合プロデュースをされているんですから、役者や演出家だけでなく美術、照明、音響、衣装、ヘアメイク、舞台監督、そして脚本、翻訳、通訳・・・など、作品に直接関わった人たちの顔が見えることって大切だと思います。というか、観客として単純に嬉しい♪

 舞台美術がすごく良かったです。照明も好き。音響は抑え気味で、だけどメリハリがありました。役者さんだと植野葉子さん(新妻役)がきれいでした。一番素直に役柄に入っていけてるように思いました。無理がない。

tpt : http://www.tpt.co.jp

Posted by shinobu at 01:14 | TrackBack

2003年04月03日

絶対王様× bird's-eye view ×フライングステージ『絶対鳥フライ』 4/1, 2 下北沢駅前劇場

 『脱力絶望』×『おしゃれ』×『ゲイ』の3劇団の企画。
 コントとお芝居のショートショート・オムニバス17分割。

 笑った笑った、面白かった!
 超満員だったので、STAFFだった私は立ち見になってしまったのですが、それでも楽しかったです。演劇初心者の方にはこういう企画からお芝居に入っていってくれたらと思います。とにかく手放しに楽しいから♪狭くて暑いけど(笑)。

 特にフライング・ステージの「贋作・マイフェアレディ」は絶品。駅前劇場でミュージカル、しかも歌(レビュー)の後に拍手が沸き起こるなんて、ほんとに貴重だと思います。ゲイの芸人パワーを見た!って気持ち。歌心、遊び心、エンターティナー精神がただものではないです。絶対王様の郡司さんがメインキャラクターとして登場していたのもバランスが良かったと思います。

 bird's-eye viewの衣装を皆さんで使いまわしていましたが、やっぱりおしゃれだな~と再確認。きれいってすばらしい。

 絶対王様の役者さんたちって、すごく優しい方ばかりな気がしました。本公演では「脱力絶望」がテーマですものね、そりゃ重いし仕方ないかな。今回は皆さん飛んでいっちゃいそうなぐらい軽かったです。ふわふわ、というより、わふわふ。

 各劇団お得意のネタを他劇団の役者が入り混じって再構成というのは、すごく世界が広がる気がします。いつも見ているのとは全く違うテイストで、その劇団の役者さんを再発見できますから。そういう意味では実は、役者バトルですよね。火花バチバチも感じました(笑)。

 またやって欲しいな、この企画!

絶対王様HP : http://www.geocities.jp/gunkiyo/

Posted by shinobu at 15:31 | TrackBack

2003年04月02日

三上博史 主演『青ひげ公の城』03/28-04/17パルコ劇場

 寺山修司没後20年、パルコ劇場30周年記念公演だそうです。パルコ劇場はもともとは西武劇場という名前で寺山修司さん率いる演劇実験室◎天井桟敷の作品を上演していたんですね。寺山さんは1983年、同劇場で上演予定だった『毛皮のマリー』の稽古中に病死されたそうです。

 『青ひげ公の城』は劇中劇の中にさらに劇中劇がある感じです。「魔術音楽劇」というコピーがぴったり。本当にマジックもありましたし(笑)。どきどきわくわくしたな~・・・・ちょっと長かったけど。

 三上博史さん、荻野目慶子さん、秋山菜津子さん、河原雅彦さん、佐藤誓さん・・という豪華キャストですが、そのキャストがそれぞれ別々に目立つのではなく、舞台が、演出が、際立って一つの作品になっています。残酷でおどろおどろしいのに、ポエティックに愛があふれています。知的刺激もいっぱい。あぁ満喫。

 マッチを使う光の効果はJ.A.シーザーさん特有の演出ですよね。スピード感とスリルがあってとにかく楽しいです。また、シーザーさんの音楽はお化け屋敷のからくりのようで、その存在は重大です。音としては暴力的なんだけれど始まる瞬間やメロディーが観客に優しいので平気でした。

 蘭香レアさんの踊りが最高にきれいでした・・・うっとり。久しぶりにダンスの演出に感動しましたね。これを観られただけで満足と言えるほどです。水底に沈んでいる妃というイメージにぴったり。衣装もものすごく合ってました。衣装はNODA MAP公演でおなじみのひびのこづえさんの立体的デザイン。魅惑的です。

 三上博史さん。天井桟敷に実際に居た方ですしカラーがぴったり。やっぱりスターって美しい。
 主役の第7の妻はオーディションで選ばれた藤岡杏さんという若い女の子だったのですが やっぱりちょっと役不足というか。棒読みですし。でも言葉が真っすぐに伝わってきたのは素晴しかったです。
 江本純子さん(毛皮族)。少ない出番でしたが堂々と立つ、歩く、止まる姿がかっこ良かった。私もとうとう毛皮族を観に行くことになるのでしょう。

 また寺山修司本を買ってしまいました。当日パンフレットも内容充実。

パルコ劇場 : http://www.parco-city.co.jp/play/

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2003年04月01日

劇団うりんこ『シェイクスピアを盗め!』 3/22, 23北とぴあ つつじホール

 グローブ座カンパニー改め「子供のためのシェイクスピアカンパニー」の田中浩司さん脚本、山崎清介さん演出なので観に行きました。俳優座劇場でのステージを逃したので王子の北とぴあ(ほくとぴあ)まで。

 面白かった!!子供のためのシェイクスピア・シリーズの味わいそのままに、大人にも楽しめる芸術作品でした。全く・・・なんて愛情深いんでしょう!田中さんがシェイクスピア作品を咀嚼して最も大切な意味を抽出し、山崎さんが子供も楽しめるエンターテイメントにして届けてくれます。

 『シェイクスピアを盗め!』はゲアリー・ブラックウッド原作の児童向け小説です。
 400年前のイギリス。孤児のウィッジは厳しい主人に速記術を教え込まれたが、その技を買われてロンドンへ連れて行かれる。そこで命じられたのはシェイクスピアの新作『ハムレット』を一字一句逃さず書き写し、盗んでくる事。グローブ座にしのび込んだウィッジはあれやこれやという内に、役者として座に残ることになったけれど・・・。

 当時のグローブ座の劇団内のお話ですので、シェイクスピア本人も登場しますし、シェイクスピアの息子ハムネットが幽霊として登場したりもします。ハムネットと主人公ウィッジとの係わり合いや、劇中劇『ハムレット』に出演する演出がシェイクスピアの私生活とあいまって、物語をより一層切なく、身近に感じさせます。『ハムレット』以外のシェイクスピア作品からも多数名言が紹介されていて、それでいて子供向けの作品に仕上がっているんですよね。笑いと涙がいっぱい。心が洗われます。

 劇団うりんこ は、名古屋を拠点として活動している児童向け演劇を上演する劇団で、創立30周年だそうです。

 劇団うりんこ : http://www.urinko.jp

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